「リスクのない事業継承はない」と心得る ~賢い事業承継を考える⑦~ ┃ 相続に強い税理士紹介 相続財産センター

トップページ > 遺産相続 「先生 教えて !」 > 「リスクのない事業継承はない」と心得る ~賢い事業承継を考える⑦~

「リスクのない事業継承はない」と心得る ~賢い事業承継を考える⑦~
vol.086img
事業承継を円滑に行うためには、早いうちから準備が必要だ――。経営者の方なら、そういう認識は、みなさんがお持ちでしょう。しかし、例えば「民事信託」の活用を勧められても、二の足を踏む方が、実際にはまだまだ多いようです。ただ、「有効な手立てを打たなかったばかりに、うまく息子に継がせることができなかった」というような事態は、是が非でも避けたいもの。公認会計士・税理士の田上敏明先生に、経営者が持つべき心構えについて、あらためてうかがいました。
想定外の事態に備える

前回、本格的な「争続」になりかけた、タクシー会社の社長さんの相続について、お話ししました。3人の兄弟の間で、「事業は長男が継ぐ」「遺産分割のやり方も、父と長男に任せる」という合意があるというので、それに従って事を進めていたところ、いざ相続が発生したら、次男が法定相続分を要求して、反旗を翻した、という事例でした。

結局、お父さんの残した「長男に全財産を譲る」という遺言書もあって、長男提案による穏当な遺産分割で、事なきをえました。しかし、一歩間違えば、遺産分割協議がなかなかまとまらずに、ご長男の事業承継に支障をきたす可能性も、あったわけです。

ところで、このケースでは、事業継承に向けた生前の準備は、ほとんど何もしていませんでした。お父さんには、「自社株を、少しずつでもご長男に渡していったらいかがですか?」と提案したこともあったのですが、「そうだね」とは言うものの、一向に実行に移す気配は、なかったですね。

父親としては、「兄弟仲はいいし、相続は円満にいく。会社の財産は、そこで継がせればいい」という思いがあったのかもしれませんが、実際には争いになってしまいました。話がこじれて、父の遺産である自社株を、トラブルを起こした兄弟で分割せざるを得ないような状況になったら、会社の経営に重大な影響を与えていたかもしれません。被相続人の生前に、可能な範囲で事業承継の準備を進めることには、やっぱり大きな意味があると思うのです。

前向きに、メリットに目を向ける

に、事業承継における、自社株の「民事信託」(*)について解説しました。この仕組みを使えば、株主総会における議決権といった「経営権」を父親が引き続き保持しながら、後継候補の息子などに自社株を譲っていき、後々「経営権」も渡すことができます。まだ後継者と決めかねているような場合に、特に有効な手法であることも、お話ししたと思います。

ただ、この仕組みが実際に使われているケースって、まだ少ないんですよ。多くの経営者の方の反応は、さきほどのお父さんと似ています。「自社株の民事信託って知っていますか?」と聞くと、たいてい「知っている」という答えが返ってくる。ところが、「じゃあ、やってみましょうか」と言っても、「そうだね。検討しておくよ」で終わってしまい、なかなか「うちでもやろう」にはなりません。「この会社のためにあるような制度なのに」と、プロとして悔しい思いをしたのも、一度や二度ではありません。

むろん、民事信託にも越えるべきハードルはあります。例えば、信託の「受託者」は、「未成年又は成年被後見人若しくは被保佐人」以外であれば、個人でも法人でもOKとなっていますが、金融機関がこれを担う商事信託と違って、基本的に無報酬で、受益者のために義務を負うだけの、言ってみれば、割の合わない仕事をする立場に置かれるんですね。まずは、それを良しとする受託者を探すところから始めなくてはなりません。探すのが大変だから、と安易に受託者を決めた結果、委託者の死亡後に、信託契約の権限違反行為が発生する可能性も、ゼロとはいえないでしょう。

ただし、信託者を、個人ではなく、委託者自身が民事信託の受託のみを目的に設立した法人にする、といった策を講じることによって、そうしたリスクは、かなり払拭できるはずなんですね。会社を経営する以上、リスクはつきものです。これまで経験したことのない事業承継は、その最たるもので、新しい仕組みを導入するのもリスク、座して待つのもリスク、ではないでしょうか。

少なくとも、事業承継に関連する様々な手法、中でも自社株対策については、「当社に役立つものはないか」という前向きなスタンスで、見直してみて欲しいのです。私自身、引き続きそのお役に立てるよう、頑張りたいと思っています。

*民事信託 信託とは、「受託者」が「委託者」から移転された財産(信託財産)について、「受益者」の利益のために管理し、必要な行為をすること。信託銀行などが営利目的で信託の引き受けを行う「商事信託」に対し、民事信託では、個人や法人が無償で受託者となることができる。

カテゴリ:事業承継
関連記事
なだめたり、時にはあおったり。遺産分割協議のテクニック
「うちは揉めない」と思っていても、いつの間にか争いになるのが、遺産相続。税理士の平井良先生も、そんな数多くの遺産分割協議の現場に立ち会ってきました。争いの様相は家族によってそれぞれながら、そこには「必ず揉める要因」も、経験で体得した「鎮めるためのテクニック」もある、と話します
「書面添付」にはテクニックも要る
相続税を申告する人にとって、税理士の“お墨付き”が得られる「書面添付」には、大きなメリットがあります。ただし、実際に添付されている申告書は、まだほんの僅かしかありません。そこには、「税理士の側の事情」も大きく影響している、と税理士の木村智行先生は言います。
「成年後見人」にないメリットがある養子縁組
高齢になって判断能力が衰えてきた人の面倒をみたい――。こんな場合に利用されるのが、「成年後見人制度」です。後見人になれば、判断能力の衰えてきた人に代わって財産の管理などが可能。ただ、家庭裁判所の監督下に置かれるため、いろいろと窮屈なことも多い、といった問題も指摘されています。税理士の稲葉豊先生は、「そんな場合には、養子縁組という選択もある」と話します。
相続が得意な税理士の無料紹介はこちら