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遺産相続「先生、教えて!」
遺産相続「先生、教えて!」
女性税理士だから“わかる”相続もあるのです
女性税理士だから“わかる”相続もあるのです
「女性活躍社会」が政策目標になっていますが、税理士業界でも女性比率が右肩上がりに高まっています。日本税理士会連合会の調査によると、2013年3月末の時点で初めて1万人を超えた女性税理士は、昨年3月末には1万859人に。構成比も14.4%となり、今後も増加が見込まれています。2000年に独立開業した東京RS税理士法人の海老原玲子先生も、その一人。「女性の緻密さ、きめ細やかさは、相続に向く」と話す先生に、事例を交えて語っていただきました。
◆増える高齢女性の相続
何もわからず、オロオロするばかり
先生は、専業主婦をやりながら税理士資格を取り、独立されたんですよね。
はい。専業主婦も、働きながらの子育てや介護も、結婚した女性が直面する課題は、一通りクリアしました(笑)。

独立した時は、文字通り“ゼロからのスタート”でしたので、どうやって食べていこうか考えたんですよ。そうすると、世の中には、ご主人を亡くして相続で困っている方が、とても多いことに気づいたのです。高齢化社会だから、そういう人はこれからも増えていくでしょう。だったら相続を“売り”にしよう、と。自分の経験も生かして、親身になって相談に乗ってあげられると考えたわけです。
実際のところ相続のどういうところにお困りなのでしょう?
何もかも(笑)。時代背景もあるのでしょうけど、いわゆるご結婚され嫁ぎ、家事や子育てを長年ご経験されてきた女性のなかには、銀行にも行ったことがないような方がいらっしゃいます。家の財産がどうなっているのか、不動産の登記書類がどこに仕舞ってあるのか。相続といっても、どこから手を付けたらいいのかがわからないのことが多いものです。
その手のことは、全部旦那さんが管理していたわけですね。
その通りです。もう10年近く前のことになりますが、印象に残るこんな事例がありました。80歳近い男性が亡くなって、相続になりました。相続人は、60歳代の奥様と息子が2人です。相談に来られた奥様が、まさに今お話しした状態だったんですよ。実は奥様からは、ご主人の具合が悪くなった時から、「もし相続になったらお願いします」と相談を受けていました。そんな方ですから、心構えも、ある程度の準備もできているように思えるのですが、実際は違いました。いざその時が来たら、「どうしたらいいのでしょう?」とオロオロするばかりだったのです。
遺産には、不動産などもけっこう含まれていたのでしょうか?
ご主人は、自宅の他に何ヵ所か土地をお持ちで、アパート経営もされていました。それらも含めて、すべての遺産を受け継ぎ、息子たちと分けなければならない。しかも、財産の全貌さえ知らない自分が、全部を取り仕切らないと……。その重圧と不安で、半ばパニックの状態でしたね。

そこで、まずは残された財産を整理するところからお手伝いしました。調べてみると、現金に不動産などを加えた遺産総額は、3億円ほど。それを、奥様のご意見もうかがいながら、3人でどう分けるのか詰めていったわけです。相続開始から5ヵ月ほどでアウトラインは固まり、遺産分割協議書(※1)を作成しました。
「あの子に財産を渡したら、嫁のものになってしまう」
それで一件落着。
ところが残念ながら、想定していたとおりにはいかなかったんですよ。いざ遺産分割協議書に押印するときに、奥様は「本当にこれでいいのかしら」という思いが首をもたげてしまって、なかなか決断ができないのです。「この土地は、長男に渡すほうがいいのでは」「こっちのアパートは、やっぱり次男かしら」という具合。ご自身が「これだけもらいたいから」というよりは、息子たちにどう分けるのかに悩んでいました。ちなみに、兄弟同士は仲が悪いわけでもなく、「決められた方針に従います」という姿勢だったのですが。
なるほど。うつろいやすい“女ごころ”が災いしてしまった。
“母ごころ”でもあります。困ったことに、「ではこうしましょうか」とご提案して、いったんOKが出ても、「やっぱり……」の繰り返し。なかなか結論が出せないままに、時間だけがたっていく、という状況に陥ってしまいました。でも、私にはよくわかります。おっしゃるように、それが女性の特性なんですね。男の方からすれば、「どうせ決めなくてはならないのだから、悩んだって仕方ないだろう」で、終わってしまうのかもしれませんけど。
最終的には、どうやって納得していただいたのですか?
こういうケースでは、事態を一気に変える「特効薬」というものは期待できません。「早く決めてください」みたいな対応をすれば、話がこんがらがるだけです。とにかく、根気よく相手のおっしゃることを聞く。私はそれに徹しました。そうすると、長男は稼ぎがいいとか、次男の孫は大変だとか、いろんな話が出てくるわけです。それらに、自らの体験や、過去の事例なども引き合いに出して、丁寧に対応して言ったわけ。 この事例では、そうやって話を聞いているうちに、奥様の心に1つ引っ掛かっている問題のあることがわかりました。長男が夫婦関係に問題を抱えていたんですね。もしかすると、妻と別れることになるかもしれない、という段階でした。息子は可愛いけれども、そんな状態で財産をあげたら、離婚した時にお嫁さんに持っていかれるのではないか、という心配があったのです。
離婚の時の財産分与が気になったわけですね。
そうです。ただし結論を言えば、親から相続した財産は、財産分与の対象にはなりません。離婚した時に2人で分けるのは、夫婦で協力してつくり上げた「共有財産」で、相続財産などの「特有財産」(※2)は、相手に分ける必要はないのです。正確に言うと、例えば相続したアパートの経営に奥さんが協力したような場合には、それで得た賃料収入が財産分与の対象になることはありますけれど。 まあそんなお話もしながら、被相続人が亡くなってから10ヵ月という相続税の申告期限ギリギリにはなりましたが、最後はすっきりと納得していただくことができました。晴れ晴れとした顔で「ありがとうございました」と言われた時には、本当に嬉しかったですよ。
※1遺産分割協議書 相続人が遺産分割協議で合意した内容を文書にまとめ、相続人全員の合意書として成立させる書類。
※2特有財産 婚姻前から夫婦の一方が有していた、ないし婚姻中でも夫婦の協力とは無関係に取得した財産。
「一次相続」のポイントは、「配偶者控除」と「二次相続」
今お話しいただいた事例は、夫婦のどちらか、この場合はご主人が亡くなって発生した「一次相続」でした。この先には、奥様ご自身が亡くなる「二次相続」が控えています。
ですから、一次相続の時には、二次相続のことまでよく考えて遺産を分けることが、とても大事なのです。一次相続で目先の節税ばかりに気を取られると、後々大変なことになる危険性があるんですよ。 気を付けなければいけないのは、「配偶者控除」です。相続では、配偶者が遺産を受け取る場合、「1億6000万円」か、「法定相続分相当額」=親と子どもが相続人だったら遺産総額の2分の1――のいずれか多い金額までは、税金がかからないんですね。それだけ、配偶者の相続は優遇されているわけです。
ところが、そこに“落とし穴”がある。
そう。ならばというので、目いっぱい妻が相続して、その場は相続税の支払いが僅かですんだとしましょう。しかし、数年後に訪れた二次相続で、お母さんの遺産を貰うのに、想定外の相続税がかかってきた。財産のほとんどは不動産だから、取りあえず税を支払うためのお金に窮してしまった……などという悲劇が起こりかねないのです。 そんなことにならないためには、二次相続まである程度見通しを立てて、一次相続ではやや「出費」になるものの、少し厚めに子どもに渡しておくといった配慮も、遺産の額や家族の状況によっては、考えておくべきでしょう。ちなみにさきほどの事例の奥様にも、あえてそんなテクニカルな話もしながら、考えをまとめていただいたんですよ。
◆「争続」は感情のもつれ。それはお金で解決できる
少ない金額でも揉める
今お話しした、一次相続、二次相続なのですが、争いになりやすいのは、後者なんですよ。「一次」の時には片方の親が健在だけれど、「二次」では子どもたちだけの相続になるからです。
親の目が光っているうちは、なんだかんだ言っても、子どもは言うことを聞くわけですね。
お目付け役がいなくなったとたんに争いを始める、というのは珍しいことでも何でもありません。さきほど申し上げた、一次相続である程度の財産を子どもに渡しておくというのは、二次相続での諍いのタネを減らすという点でも、意味があると思います。
相変わらず、相続をめぐる争いは増えているのでしょうか?
そう感じます。遺産分割協議が決裂すると、家庭裁判所での調停に委ねられることになりますけれど、その件数も10年前に比べて2倍近くに増えているんですよ。これは大変なことです。しかも、ほとんどが遺産総額5000万円以下の、こう言ってはなんですが「小さな相続」なんですね。
「争続」はお金ではなく感情で発生する、という話を実証するデータだと思います。でも、感情は目に見えないし、家族によって事情は様々だし。困ってしまいますよね。
実は、その感情をほぐすのは、やっぱり「お金」だったりするんですよ。
え、どういうことでしょう?
「これだけ節税できますよ」と説得する
どうして調停や裁判になるまで争うのかといえば、感情的になった結果、「あの人より金額が少ないのは、我慢ならない」「私が多く貰って当然」と凝り固まってしまうから。そうなると、「感情」のほうを動かそうとしても、なかなかうまくはいきません。一方で、人間はゲンキンなもので、少額なら少額なりに、少しでもたくさんのお金をもらいたいものなのです。 そこで“武器”になるのが「お金」、具体的には節税のお話です。さきほどの配偶者控除もそうですが、相続税には納税額を減らせる特例などが、いくつかあります。ただし、それが使えるのは、きちんと遺産分割協議が整っていることが条件。争った状態、すなわち相続財産が「未分割」では、適用は受けられません。
未分割でも、相続税は支払わなくてはなりません。その後折り合いをつけたとしても、少なくとも一時的には、かなりの出費を覚悟しなければならなくなる……。
実際の分割の仕方も、大変重要です。典型例は「小規模宅地等の特例」ですね。適用の要件はけっこう細かいので、詳細は省きますけど、例えば亡くなった親と同居していた長男がいて、その家族が引き続きその家に住み続ける場合には、その不動産の評価額が8割減額されます。仮に1億円の評価だったら、特例の適用で2000万円まで減額。相続税の計算は、その金額で行われることになるんですよ。
それを使うことで、相続税の支払いそのものを免れるケースも、非常に多いんですよね。
そのくらい、インパクトが大きい。でも、もし次男が「平等な相続でなければ認められない」と、実家の土地を半分に分けるよう主張したらどうでしょう? 小規模宅地等の特例は、もちろん受けることができず、2人とも相応の税が課せられることになります。 そこで、「お金」の出番です。「実家はお兄さんが引き継ぐことにすれば、相続税の支払いはこんなに減りますよ。その上で、弟さんが不利にならない方策を考えましょう」とお話しするのです。残りの財産は、全部次男が相続するとか、それでも足りなければ「代償分割」(※3)という手もあるでしょう。そうやって、話をまとめることによる金銭的なメリットがわかると、私の経験上、嘘のように場は落ち着きます。
目の前の親の遺産を感情的に引っ張り合っているところに、「税金」というまったく別の“モノサシ”を示すことで、冷静になってもらうわけですね。
そういうことです。相続でこの手法が使えるのは、税理士だけです。弁護士さんだったら、「正当な権利を主張しましょう」という方向に誘導されると思います。
そんなお話を聞くと、同じ専門家でもどういう人に相談するのかは、とても大事だと感じます。
『話を聞かない男……』というタイトルの本がありましたけど、相手の言うことをちゃんと聞ける女性税理士は、こういうこじれた案件にこそうってつけだと、私は思っているんですよ(笑)。
すべてが悪ではない「不動産の共有」
今のは、揉めた案件への対処法でしたが、そうした揉め事を起こさないために、一次相続で具体的にアドバイスなさっていることは、何かありますか?
さっきも言ったように、子どもにどういう遺産を、どのように渡しておくのかがポイントなんですね。特に知恵を絞るべきなのは、やっぱり不動産です。例えば、子どもが3人いて、父が遺した土地がA、B、C、Dの4ヵ所あったとします。私が勧めるのは、最終的にどこをどの子どもに譲るのかを決めておいて、そこを母親との共有にして相続するやり方です。AとBは長男と、Cは次男と、そしてDは長女と母親というように、それぞれを共有名義にするんですよ。
そうすると、母が亡くなった二次相続では……。
自動的に、AとBは長男が、Cは次男が、Dは長女が相続することになるでしょう。そうしないで、配偶者控除を目一杯使いたいからと、土地を全部母親が相続すると、それが二次相続での「奪い合い」を招く危険性があるわけです。反対に、一次相続の時点で全部子どもに渡そうとすれば、せっかくの配偶者控除の枠が有効に使えないことになります。
なるほど。でも先生、「相続では、不動産の共有は絶対に避けよ」というのが、鉄則なのでは?
それはこういうことです。親が亡くなって、3人の子どもが相続することになった。遺した土地を、3人の共有名義にしたとします。その場は確かに平等な相続ではあるのですけれど、実は困ったことが起きるんですね。ある人が土地に建物を建てたり、あるいは改築したり取り壊したりしたいと思ったら、他の2人の承諾が必要。土地を担保にした借り入れも、他の共有者の同意なしにはできません。

今の状態ならば、気心の知れた兄弟同士だから、まだいいかもしれません。しかし、その兄弟たちもいつかは亡くなって、その土地も相続されます。子どもが2人以上いれば、共有者が増える可能性があります。その子どもが亡くなって、さらに相続が発生し……。こうやって、所有権を持つ人間がどんどん増えるだけでなく、お互いは顔を見たこともないような疎遠な間柄という、誰も手出しができないような土地になってしまう。
道路にせり出した空き家がおっしゃるような権利関係になっていて、にっちもさっちもいかないという報道が、以前にありました。
それが、共有不動産の怖さなのです。ただし、それは「子ども同士」が共有する場合。最初にお話しした「親と子の共有」は、事情が異なります。言い方は変ですが、一方の共有者である親はいつかいなくなって、名義は子どもに「一本化」されるのが前提ですから。
相続に詳しい専門家に頼めば、そんなアドバイスも受けられるというわけですね。
※3代償分割 財産を特定の相続人が取得し、それが他の相続人より多かった場合、その代償として金銭や物を他の相続人に支払う、という遺産分割の方法。
◆サラリーマンの相談も増えている
相続税「基礎控除」引き下げの“衝撃”
2015年に相続税の「基礎控除」が引き下げられ、税金の支払い対象者が増加しました。先生の実感として、「伸び率」はどれくらいでしょう?
「基礎控除」は、簡単に言えば、相続税の課税対象になるかならないかの境界線で、例えば子ども2人で相続する場合、かつては7000万円だったのが、法改正で4200万円に引き下げられました。相続財産がこの金額を超えた場合は、相続税の申告、支払いが必要になるのです。 さて、ご質問の答えですけれど、法改正で課税対象者が6%から10%に増加などと言われました。でもそれは、あくまで全国平均のお話。地価の高い東京では、もともと20%近いケースで課税されていて、私の開業している江戸川区に関して言うと、それが軽々倍増した感じです。
やはり持ち家が原因ですね。
そうです。最初に、高齢者女性の相続が増えているというお話をしましたよね。この法改正後に急増しているのが、二次相続を迎えた現役サラリーマン世代からの相談なんですよ。東京をはじめとする大都市圏に狭いながらも親の持ち家があって、その他にある程度の預金などがあれば、もう“引っ掛かって”しまいますから。 実は、ここにも一次相続の「後遺症」が顔を出すのです。お父さんが亡くなった時代は、お母さんと子ども2人の相続だったら、基礎控除の枠は8000万円ありました。税金は関係ないからと、相続のことを深く考えずに、お母さんが遺産の一切合切を譲り受けているようなケースが、珍しくありません。かつ、今亡くなる世代の方は、若い頃からがっちり貯金をしています。お母さん自身が、数千万円の通帳を持っていたりするわけですね。
亡くなってから、親がいかに「お金持ち」だったのかに気づく。
この場合、実家に子どもが住むのなど、要件を満たせばさっきの「小規模宅地等の特例」が使えます。実家の土地の評価額は8割減にできるので、なんとか基礎控除の枠内に収めることができるかもしれません。しかし、独立して別に家を建てているような場合には「特例」は受けられず、けっこうな金額の税金の支払いになります。そういう状況の方が、ここ1~2年、とても多く相談にいらっしゃるようになったのです。
税務署には縁がないはずだったけど……
サラリーマンは、ふだん税金を意識することって、あまりありませんよね。
そうなんです。所得税は“天引き”と年末調整で、ずっとやってきていますから。税務署や税理士なんて、「自分とは関係ない」くらいの世界。ところが、親が亡くなったとたん、そんな税務署から突然相続申告について案内とかお知らせが届くわけです。「こういう場合は、納税が必要ですよ」と。
あ、そうなんですか。
私の記憶では、かつては相当な資産家でなければ、税務署はそんなことをしなかったと思うのです。それが、法改正後は、申告の必要がない人のところにまで届くようになったんですよ。日本中そうなっているのかどうかは、わかりませんけど。 いずれにしても、税務署からいきなり相続税の申告についてのお知らせが来てびっくりしない人はいないでしょう。びっくりして、とりあえず税理士事務所をネットで調べたりして、「こんなのが来たんですけど、どうしたらいいのでしょう?」と、いらっしゃるわけです。中には、「どうしよう」と思っているうちに申告期限まで1ヵ月になってしまい、慌てて駆け込んでくるような方もいますよ。
自分がすでに独立していて、実家はもう必要ないという状況だと、その家のことも含めて、どうするのかを考える必要がありますね。
「いらない不動産」なのですから、普通は売却することになるでしょう。相続人が複数いる場合に考えられるのは、売却して現金で分ける「換価分割」か、誰か1人が相続した後に売却するか。後者では、必要に応じて、さきほどの「代償分割」などの方法も使いながら、話し合いが円滑に進むように進めていきます。こういう相続は、これからも増えていくように感じますね。
相続税の「過払い」が増加している!?
ところで、初めて税理士さんのところに来るサラリーマンのお客さまって、どんな雰囲気なのでしょう?
まさか、相続が発生して自分が税理士にお世話になるとは思わなかった。でも、せっかく面談をするなら納得できるまで確認しよう――。そんな意志を感じます(笑)。もともと税金とは縁遠いので、そこは1から丁寧な説明が必要。面談される前に色々とネットなどで調べられてますからスムーズにご理解はいただけますけれど、時間が限られてますので初回で1から10まですべてをお伝えすることはなかなか大変です(笑)。会社経営者や個人事業主の方には、「先生、任せたから後は頼むよ」というタイプの方がけっこういるんですけど、そういうお客さんは、少ないかもしれません。
情報を集めるのにも長けていそうだから、事前にいろいろ調べてくる人も多いのではないですか?
ああ、たまにいらっしゃいますね。今、国税庁のホームページが「充実」していて、相続税をある程度自分で試算することができるんですよ。土地の評価額は路線価(※4)がわかれば弾き出せますから、それに預貯金なんかを乗せていけば、「いくら」というのが表示されるわけです。ただし、この計算は絶対ではないので、気をつける必要があります。
どういうことでしょう?
問題は、土地の評価なんですよ。この前も、相続税をバッチリ試算したはいいものの、相続税がかかる、申告が必要と「もう少し下げられませんか?」と相談に来られた方がいました。そこで、実家の土地を調べてみると、いくつかの「問題点」が発見されたのです。 まず、土地には私道が含まれていたのですけど、これが通り抜け可能で、不特定多数の人が利用する道路だったんですね。この場合、私道部分の評価はゼロにできます。加えて、土地自体が「不整形地」といって、要するに正方形や長方形のように整った形状をしていないことがわかったのです。セットバック部分もありました。これらも、土地の評価としては、大きなマイナス要因になります。 それやこれやで、土地の評価はどんどん下げることができました。最終的には、なんと税金の支払いは不要になったんですよ。
すごいというか、怖い話ですね。
国税庁ホームページの試算表は、単純に平面地の面積に路線価を掛けるだけですから、そういうことが起こるわけです。税務署からお知らせをもらった人の中には、そうやって自分で計算して申告する方も、たくさんいらっしゃいます。
税理士さんに頼めば、お金がかかるし……。
そうですね。私も、評価のしやすい遺産を相続するような場合には、それで問題ないと思うんですよ。ただし、中途半端な知識でやろうとすると、結果的に申告を間違えて税務調査(※5)になったり、逆に払わなくてもいい税額を支払ってしまったり、といったことも起こりえます。法改正で相続税の申告件数が増えた結果、税の払い過ぎもかなり増加しているのではないかと、私は推測します。  一次相続は自分で申告し、税務調査があり、散々な目にあったと、二次相続は税理士に頼み、相続税はびっくりするほど少なくなり、調査もなかったと喜ばれたケースもありました。
専門家のサポートを仰ぐかどうかは、その人の判断ということになりますが、自分で申告するリスクについては、きちんと認識しておく必要があるようです。
故人を思い出し、涙する依頼人もいる
お話をうかがってきて、あらためて「相続のわかるプロ」にアドバイスを仰ぐ大切さが理解できたような気がします。
ただ、冷厳な事実を申し上げると、きちんと相続ができる税理士は少数派なんですよ。相続の知識が乏しい、あるいはやったことがない先生はたくさんいて、そういう事務所に頼んだために「税理士不信」になってしまう方もいます。 相続が「できる」先生でも、極論すればアドバイスの仕方は十人十色。いくつか例も挙げましたけれど、テクニカルな部分でいろんな対処法があることに加えて、相続の場合は「相続人が揉めないようにまとめる」というファクターも加味されますからね。
そういう内実も、知っておいて損はないでしょう。先生の側からみて、「もし相続人になったら、こんな姿勢で臨んでほしい」という心構えは、何かありますか?
そうですね、やはり感情的にならずに、冷静に考えてもらいたいというのが、一番でしょうか。これはよくお話しするのですが、財産に関して言えば、被相続人が亡くなった瞬間に、すでに相続人のもの財産なんですよ。相続は、ただそれを分ける手続きに過ぎません。相続人の諍いさえ起きなければ、最適の節税を考え法実行して、それぞれの受け取り分を増やすこともできるわけです。その視点は、忘れないでほしいですね。 まあそうはいっても、ドライ一辺倒では、話が進まないのも確かです。以前、私の前でいろいろ話しているうちに、亡くなったご主人のことを思い出して、泣き出した方がいたんですよ。その時は、ご主人は幸せだなあ、とつくづく感じましたけど(笑)。
それも感情の発露ですよね。先生が親身になって相談に乗ったからこその涙だと感じます。
そういう感情にも寄り添いつつ、しかし実際の手続きはクールに。これからも、そういう相続を心掛けていきたいですね。
※4路線価 毎年国税庁が公表する、道路に面する土地の1平方メートル当たりの評価額。
※5税務調査 国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
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