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遺産相続「先生、教えて!」
遺産相続「先生、教えて!」
予想外の感情があふれ出る それも相続の真実です
予想外の感情があふれ出る  それも相続の真実です
ふだん特にお互いを意識することなく暮らしていた家族だったのに、相続が発生したとたんいろいろな感情が顔を出し、時にはそれが諍いを生んでしまう――。それが相続の怖さ、「不思議さ」でしょう。今回は、これまで数多くの案件に立ち会ってきた土田会計事務所の土田義二先生に、特に印象に残る事例をご紹介いただきます。ほぼ完成した遺言書に、最後の最後、判を押せなかった母親。父が亡くなってから次から次へと想定外の遺産が出てきた相続人は、どうしたか?……。全部「本当にあった」出来事です。
◆「遺言書を書いて」が言えなかった
「余命半年」と診断されて
ズバリうかがいますが、やっぱり相続は揉めますか?
そうですね。程度の差はあっても、なにがしかの争いが始まることは、まったく珍しくありません。お金のこともさることながら、ちょっとした行き違いで感情が爆発し、もつれてしまうことが多いですね。ただ、この感情にもいろいろあって、相続を複雑にしてしまうこともあれば、こちらが拍子抜けするほどスムーズに進む潤滑油のような役割を果たすこともあるんですよ。
そうですか。今日は、そんな様々な感情が絡んだ事例を、いくつか教えてください。
わかりました。では、被相続人の遺言書があれば万事問題なかったけれど、どうしても「書いてください」が言えなかった、というお話から紹介しましょう。  私のお客様に、不動産関係の会社を経営していた女性Aさんがいました。その妹Bさんが50代の若さで亡くなったんですね。進行の速いがんで、見つかった時には「余命半年」の宣告でした。Bさんは独身で子どもなし。他方、AさんとBさんの両親は、高齢ながら健在でした。この家族構成が、相続の際にちょっとした問題を生じさせることになったのです。  民法には、「法定相続人」と、その「相続分」についての定めがあります。
配偶者と子どもがいたら、それぞれが遺産の2分の1ずつを相続するわけですね。
そうです。では、配偶者も子どももいなかったら、どうなるのか? 民法は、そうしたケースについても、「相続順位」として定めているんですよ。
相続順位
上記の図を見てください。まず、配偶者がいたら、どんな場合にも相続人です。で、「第1順位」は子ども。子がいなければ、「第2順位」に移って父母やその親が相続人、さらにその人たちもいなければ、「第3順位」の兄弟やその子どもが相続人になるわけです。例えば、配偶者がいて子どもはいない、親もすでにないという場合、兄弟が存命していれば、配偶者と兄弟で被相続人の財産を分けることになります。  さて、お話ししたように、Bさんは独身で亡くなりました。ですから、その遺産はすべて第2順位のご両親が相続することになったのですが……。けっこうな額の預貯金と退職金も高齢の親が相続することになりましたが、最も「問題」になったのは、Bさんが持っていた株でした。Bさんは、姉の会社の役員になっていて、その株を3分の1保有していたんですね。  そもそも、その事業は彼女たちの父親が起こしたものでした。親は、相続対策として、計画的に自分が持っていた自社株をAさんに3分の2、Bさんに3分の1、生前贈与してきたのです。
ところが、その「3分の1」が、親からすると、まるまる自分のところに帰ってきてしまった。
事業は好調で、毎年かなりの利益を積み増しています。それは喜ぶべきことなのですけれど、そのぶん株価の評価は年々高くなる。親の元にただ帰ってきたのではなくて、すごく値上がりして戻ってきたんですね。現金なども含めた娘の遺産には、かなりの相続税が課せられました。  かつ、もともと資産家のご両親ですから、それに想定外の自社株までプラスされて、自身の財産は大きく膨らむことになりました。Aさんがそれを相続する際には、今度は彼女が相当重い相続税を覚悟せざるをえないでしょう。
遺言書は「法定相続」に優先する
この事例の場合、家族関係は良好だったわけですね?
はい。問題になったのは100%税金、すなわちお金です。そしてこのケースでは、残った家族の金銭的な負担を大きく減らす方法が、一つありました。Bさんに「自社株は、すべて姉に譲る」という遺言書を書いてもらうのです。さきほど法定相続人の話をしましたが、法に則って遺産を分けるのは、被相続人の遺言書がない場合なんですね。逆に言えば、遺言書があれば、法定相続分とは違う遺産分割ができる。法定相続人ではないお姉さんに遺産を渡すことも可能になるわけです。  仮に申し上げたようなBさんの遺言書があって、Aさんが自社株だけを相続したとしたら、支払う相続税はそんなに高額にはならないはず。直接自社株を移せば、親の財産の「膨張」も防げたでしょう。
なるほど。無駄な“行って来い”を防げるわけですね。
でも、余命宣告を受け、辛い抗がん剤治療を受けつつ闘病中の人に、「遺言書を書いて」と言えるでしょうか? もし話していたら、Bさんは喜んでそれに応じたかもしれません。しかし、「お金」と彼女を天秤にかけることを、その家族は最後までしませんでした。甘んじて「負担増」を受け入れたのです。  自分で責任をもって請け負った案件でしたが、相続対策としては「失敗」という評価になるのかもしれません。ただ、ご家族がそんな話を始めなかったことに、正直ほっとしたのも事実なんですよ。
◆遺言書に判が押せなかった母
予想外の感情があふれ出る  それも相続の真実です
「肝っ玉母さん」が力をふるう会社
「遺言書を書く、書かない」に関しては、こんな事例も印象に残っています。やはり親の創業した会社を、男3人兄弟の次男が継いだんですね。私は、その会社の顧問税理士です。ちなみに、長男はお堅いサラリーマン、三男はまったくタイプが違って、長く勤めていた会社を辞めてからは、職を転々という感じでした。  会社のほうは、次男が社長で、父親が会長、お母さんも役員に就いていました。この社長はとても優秀な方で、親がバブル期にやった投資の失敗を挽回し、それこそ資金繰りでアップアップしていたような会社を、継続的に億円単位で利益を出せるところまで成長させたんですよ。ところが、会社の組織というか力関係はちょっと変わっていて、役員をやっているお母さんが、絶大な権限、影響力を行使していたのです。病気がちのお父さんが「名誉職」なのに対して、お母さんは、私に対しても「死ぬまで現役です」と言って憚らないタイプ。  会社自体、夫婦が一緒に立ち上げたものだったのですが、なぜか預貯金とか不動産とかの財産は、妻のほうが夫よりもずっと多い。会社の株も7割近くを持っていて、「そろそろ息子さんに譲りませんか」と話しても、「ノー」なのです。
実質的に経営権を握っていたわけですね。
かといって、社長のやることにあれこれ口出しするというのではないんですよ。とにかく、自分の仕事を死ぬまでやり遂げるんだという感じでしたね。ところが、これも運命のいたずらか、このお母さんにもがんが見つかったのです。
遺言をためらった理由
やはり余命宣告されたのでしょうか?
その点は詳しく聞いていないのですけれど、恐らく「そう長くはない」と言われていたようです。いずれにせよ、もしこのままお母さんが亡くなった場合、法定相続分は「配偶者=父親2分の1、残り2分の1を子ども3人で案分」ということになります。高齢で病弱なお父さんの状態を考えれば、お母さんが持つ財産はできる限り直接子どもに譲ったほうが、一次、二次相続(※1)トータルで支払う相続税は、少なくてすみます。
お父さんが相続する分には「配偶の税額軽減」(※2)が使えるけれども、結果的にその財産が大きく膨らんでしまう。結局二次相続の時には、子どもたちに多額の相続税が課せられる可能性が高くなってしまうのですね。
加えてこのケースでは、母親の持っている自社株を、確実に社長である次男に引き継がせる必要がありました。もし、それなりの株を他の兄弟が分散して持つようなことになると、会社の経営が不安定になる危険性があるからです。  ですから、お母さんにはそういう内容の遺言書を書くように勧めました。さきほどの例とは違い、彼女はすでに高齢で、病気の有無にかかわらず、遺言書を書いておかしくないシチュエーションにあります。しかも、「7割の株」というやむにやまれぬ事情もありましたから、「どうでしょうか」と話したわけです。すると、「わかりました」と。  そこで、すぐに「公正証書遺言」の作成に取りかかりました。中身は、お母さんの意思を反映して、「自社株と自宅を次男に、長男、三男には現金及びアパートなどの不動産を譲る」というものでした。あえて金額に換算すると、次男の相続額が突出することになりました。
会社の業績はいいということですから、やっぱり株の評価額は高くなりますよね。
そうです。自分が頑張って会社を成長させた結果そうなったというのも、皮肉なことではあるのですが。余談ながら、いくら評価額が高いといっても、非上場会社の株にその値段で買い手がつくことは、まずありませんよ。  話を戻すと、そうした内容の遺言書を作って、公証人とともに、入院中のお母さんのところを訪れました。公正証書遺言は、全部自分で書く「自筆証書遺言」などと違い、公証人が作成して、保管もしてくれます。普通は、遺言書を作りたい人間が公証役場に出向くわけですが、それが困難な場合には、病院でも老人ホームにでも、逆にそうやって公証人が「出張」してくれるのです。「公正証書遺言」の場合には、2人の立会人も必要ですから、公証人の方が1人連れてきて、もう1人は私が務めるつもりでした。ところが……。  文書を確認して、署名してと、そこまでは遅滞なく進んだのですが、最後に捺印という段になって、彼女が躊躇したんですよ。どうしても、判が押せなくなってしまったのです。
お母さんをためらわせたのは、子どもたちに譲る財産の差でしょうか。
その通りです。次男に渡そうとした自宅も、けっこうなお屋敷ではあったんですね。長男と三男も同じ子ども。もう少し「平等」にできないだろうか、と思ったようなのです。それで結局、「今日は許して欲しい」ということに。公証人の方は、「無理しないでいいですよ。また来ます」と帰っていきました。
公証人も先生もわざわざ足を運んでいるのにペンディングにするというのだから、きっと相当強い感情に駆られたんですね。
男勝りなタイプではありましたけど、最後に「母親」が出たということなのでしょう。ところが、そのおかげで、結局「また来ます」という約束は果たせなかったんですよ。その後病状が急変して、そのまま亡くなってしまったのです。
※1 一次相続と二次相続 両親のどちらか一方が亡くなって発生するのが一次相続、もう一人が亡くなるのが二次相続。
※2 相続税の配偶者の税額軽減 配偶者は、相続した財産が1億6000万円まで、またはそれを超えても法定相続分までは非課税になる。
初七日に「遺産の話をしよう」で激怒
えっ! その日、判子ひとつ躊躇した結果、遺言書そのものが無いことになってしまったのですか。それはたいへんですね。どういう展開になったのでしょう?
案の定、すんなり決着とはいかなくなりました。社長に聞いたところでは、実はお母さんは、病床に息子たちを呼んで遺言書と同じような中身のことを話していたそうなんですよ。3人も母親には頭が上がらなかったので、長男も三男も「うんうん」と頷いていた。ところが、亡くなった後に次男が「こういう話だったよな」と念を押しても、「そうだったかな」と。
「口約束」ですから……。
まずいことに、母親の初七日の時に、三男の方が社長に「兄貴、遺産の話をしようよ」と切り出したそうなんですね。社長は「こんな席でなんだ!」と激怒して、対立が決定的になってしまった。そうとは知らない私が、後日社長のところに行って、「お母さんの相続を中心的にまとめるのは社長です。そういう立場の人は、何かあっても感情を抑えて、他の相続人を怒ったりしたらダメですよ」と言うと、「実はもう怒ってしまいました」と頭をかくわけです。
 とはいえ、遺言書がない以上、他の兄弟にも6分の1ずつ遺産をもらう権利があります。こうしたケースでは、社長に譲歩してもらうのが、骨肉の争いを避ける最善の道です。私は、「社長、とにかく会社を守りましょう。自社株を全部もらって、自宅も他の財産も、兄弟に渡しましょうよ」と説得しました。最終的には社長がそれを受け入れて、なんとかまとめることができました。
ただ、次男の方にしてみれば、お母さんが遺言書に判さえ押してくれていれば、立派に家業を継いだ自分が自宅に住めたわけですから、複雑な思いだったでしょうね。
相続はまとまりましたけど、芽生えてしまった兄弟間の感情のしこりを解消するのは、なかなか難しいと思います。そこも相続の怖さなんですよ。
◆遺産分割でやむなく譲歩。その時相手は?
予想外の感情があふれ出る  それも相続の真実です
「息子の通帳は、私のもの」
さて、嫁vs姑というのは、普段の生活でも何かと揉め事を起こすことの多い間柄ですけれど、私はこんな相続に出会ったことがあります。子どものないご夫婦のご主人が亡くなり、相続になりました。遺言書はありませんでした。私は、奥さんの依頼を受けて手続きを進めることになったのですが、亡くなったご主人には、まだ元気なお母さんがいました。ですから、これは前にお話した相続の「第2順位」の案件ということになります。相続人は、被相続人の配偶者=妻と母親の2人。法定相続分は、奥さんが3分の2、母親は3分の1です。  ところが、このお母さんが、なかなかの“難敵”だったんですよ。なぜか息子さん、私の依頼人から見ると夫名義の預金通帳をたくさん持っていて、「これは“こっち”のものだから、嫁には渡さない」と言うのです。
そもそもお母さんは、どうして息子名義の通帳を持っていたのでしょうか?
大半は、お父さんが亡くなった時、息子が相続で譲り受けたお金らしいのです。今回亡くなったその息子さんは、「これは私が預かっておくから」というお母さんに「NO」と言えない親子関係だったのでしょうね。あくまでも想像ですけど。
 ちなみに、彼の財産は、自宅と預貯金がほとんど。奥さんが生前聞いた話では、その預金のうち7~8割はお母さんが握っているらしい、ということでした。
えっ、そんなに!?
お母さんの側から金額を教えていただけないので、正確なところはわからなかったのですが。ただ、いずれにしてもお母さんの主張は通りません。実は、お父さんの相続は、息子さんが私の依頼人と結婚する前のことだったんですね。ですからよけいに、「あなたとは関係ないお金」という発想になるのでしょう。その気持ちはわからないでもありませんが、相続の時期は法的にはまったく無関係です。あくまでも「息子さんの財産」ですから、定められた取り分に従って、分ける必要がある。
でもその感じだと、簡単に「わかりました」とは、いかない気が……。
はい(笑)。今のような話を、筋道を立てて説明したのですけど、お母さんは「納得できない」と。あげく「私のぶんは自分で申告するから」と、別の税理士さんに依頼なさったんですよ。でも、依頼されたほうも困るはず。ほどなくその税理士さんから事務所に「困りましたね。どうしましょうか?」と電話がかかってきました。
 話し合った結果、とりあえず相続財産が「未分割」の状態で税務署への申告をしてもらい、その後話し合いを続けていくという方針を確認し、それぞれの依頼人を説得することにしました。幸い、その説得には、お母さんにも応じてもらえました。
 相続税の申告は、「被相続人が亡くなってから10ヵ月以内」と定められているんですね。期限内に申告しないと、相続税が発生する場合には、無申告加算税などのペナルティが課せられてしまいます。ですから、それまでに遺産分割協議がまとまらない場合は、いったんすべての財産を法定相続分で相続したと仮定して、申告、納税を行う――。それが「未分割」申告です。
 注意すべきは、未分割の申告には、デメリットがあることです。このケースでは、自宅に対する「小規模宅地の特例」(※3)は使えません。ですから、自宅の評価額は減殺されることなく、結構な金額の相続税を払わなくてはなりませんでした。ただし、原則として申告期限から3年以内に遺産分割を終え、それに基づいて更正の請求を行えば、特例の適用はOK。払いすぎた税金は、返してもらえるのです。
※3小規模宅地の特例 相続人が親と同居しているなどの要件を満たした時に、不動産の相続税上の評価額を削減できる特例。
譲歩なしに話は進まない
未分割で申告後は、どんなふうに事態を進めたのですか?
先方の言うことは明らかに理不尽で、仮に裁判になったとしても、ご主人の遺産を「取り戻す」ことはできたと思います。でも、ドロ沼の戦いは時間もコストも費やすことになりますし、精神的な負担も覚悟しなくてはなりません。  そこで私は、やはり「多くもらえる側」の奥さんを説得することにしました。「法定相続分に拘らず、打開の道を探ってみませんか」と。幸い、生活に困っていた方ではなかったこともあり、奥さんには私のこの提案に乗っていただけました。取り分が半分ずつに近い線にまで、譲歩してもらったのです。  でも、正直なところ、それでもお母さんがこの案を飲んでくれるかどうかは、半信半疑だったんですよ。とにかく、「息子の預金は、ビタ一文嫁に渡さない」と、別の税理士さんを呼んできたぐらいですから。
結果はどうだったのでしょう?
それが、先方の税理士さんがその内容を伝えると、「本当ですか?」という反応で、即座に受け入れたそう。そればかりか、「私も悪かった」という趣旨のことまでおっしゃったというのです。私も実際にお会いして頑なな対応を目の当たりにしていましたから、その話を聞いた時には、ちょっとびっくりでしたよ。  これも想像ですけど、お母さんの中ではとにかく「嫁憎し」の感情が先に立って、自分の置かれた状況などを冷静に見ることができなくなっていたのではないでしょうか。
「憎い嫁」が譲歩してくるなどということもゆめゆめ想像しておらず、現実にそうなってみたら、はっと目が覚めた……。
恐らく、そんな感じではないかと思うのです。相続は、“売り言葉に買い言葉”で、どんどんエスカレートしてしまうことが多いのですが、こういうふうに片方が譲ったとたん、相手方も突然軟化するという事例も、私は何度も経験しています。
面白いものですね。いずれにせよ、このケースも実は拘っていたのはお金そのものではなく、自らの抑えがたい感情だったというわけですね。
◆相続税の申告期限が過ぎてから、「知らなかった遺産」がザクザク出てきた!?
予想外の感情があふれ出る  それも相続の真実です
銀行から「満期」の通知が続々と
親の遺産が多ければ多いほど、子どもは欲深くなったりするものですが、中にはとてもおおらかな人たちもいます。最後に、そんな事例を紹介しましょう。  60歳代の男性が急に亡くなって、相続になりました。「なりました」というか、正確には残された奥さんも2人の子どもたちも、とりあえず遺産は全部奥さんが引き継ぐということで、特段何もしなかったんですね。税務署への申告もせずに、申告期限である「被相続人が亡くなってから10ヵ月」も経過しました。
相続財産はどれくらいあったのでしょう?
自宅と預貯金、それに株などを合わせると、1億5000万円程度になりました。
それだと基礎控除額(※4)には収まりません。申告して、相続税を払わないと。
その発想が、ぜんぜんなかったんですよ。実はお父さんは、現役時代は長く海外に単身赴任するようなビジネスマンだったのですが、お金の管理を全部自分でやっていました。でも、ケチだとか妻を信用していないとかではなく、家族がそれなりの暮らしができて、奥さんがへそくりを貯められるくらいのお金は、きちんと渡していたのです。だから、奥さんも旦那さんの稼ぎなどには、ある意味無頓着で、どのくらい預貯金があるのかもまるで把握していなかったわけです。
なるほど。相続税を支払わなければならないほどの財産を持っているとは、夢にも思わなかったのですね。
ところが、申告期限を過ぎてから、いろんな金融機関から、お父さん名義の定期預金などの満期の通知が、次々に届いたんですね。それに、考えてみたら、自宅の所有権移転の登記もしていないことに気がついた。子どもたちに「お母さん、ちょっとまずいんじゃないの?」と言われて、慌てて私のところに相談にやってきたのです。
※4相続税の基礎控除額 課税のボーダーラインとなる遺産総額。「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこれ以下なら相続税はかからない。
「お母さんは、まだ先が長いんだから」
自宅の登記変更もまだだったんですか。確かに「おおらか」ですね(笑)。
調べてみると、お父さんは、株でもけっこう儲けていました。なんと、亡くなる当日も取引していたんですよ。まあそのくらい急の出来事だったから、家族に心の準備も何もなかったというのは、よくわかるのですが。
 とはいえ、現実にそれだけの遺産があるわけですから、急ぎ対応しなくてはなりません。全財産を洗い出し、自宅には「小規模宅地の特例」(前述※3)を適用したうえで、あらためて申告を行いました。期限に遅れていますから、無申告加算税と延滞税のペナルティも避けられませんでした。
急に遺産が膨らんだわけですけど、分割はどうなったのですか?
それが、相変わらず子どもたちは「全部母親に」と言うんですよ。前に「二次相続」(前述※1)の話をしましたが、今回母親が多く相続すると、彼女が亡くなって相続になった時には、子どもたちに重い相続税がかかってきます。ですから、「ある程度の財産は、今回直接受け取っておいた方がいいですよ」ともアドバイスしたのですが、「いりません」と。「母もまだ70代だし、これからどれだけお金が必要になるかわからないから」とおっしゃるのです。
きっと生活に余裕があったのだとは思いますけど、ちょっと心が洗われるような気がします。
私も、逆のパターンをいやというほど目にしてきましたから、「こういう相続もあるんだ」と、とても心に残っているんですよ。
相続という、ある意味家族にとって究極の局面において、善くも悪くも人間の「本当の気持ち」が顔を出すということがよくわかるエピソードの数々でした。今回は、貴重なお話をありがとうございました。
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