税理士でも迷う。
しかしメリット大の「小規模宅地の特例」(居住用)

税理士でも迷う。  しかしメリット大の「小規模宅地の特例」(居住用)

2015/12/7

 
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相続税にはいくつかの特例措置がありますが、代表的なものの一つが「小規模宅地の特例」です。要件を満たせば、宅地の評価額が80%まで減額できますから、使わない手はありません。ただ、実際には「使えるのか・使えないのか」の線引きには、専門家でも迷うことが多く、その結果、「使えるのに諦めてしまう」ケースも少なくないとか。この問題のエキスパートである税理士の高橋安志先生に、いくつかの事例も交えつつ解説いただきます。

◆宅地評価額を8割減額できる「小規模宅地の特例」

相続を控えた、あるいはすでに始まっている人が絶対に知っておくべき制度の一つが、「小規模宅地の特例」です。例えば、親と同居していた子どもや、同居していなくても、3年以上賃借暮らしをしていた子どもがその宅地を取得する場合には、宅地の評価額を330㎡の部分まで、80%減額することができるんですね。相続財産に占める自宅のウェートが高い場合には、特にありがたい制度で、これを使うことによって課税自体を免除されることが、多々あります。今年(2015年)1月から、相続税の「基礎控除」、すなわち「相続財産がいくらあれば課税対象になるのか」のボーダーラインが引き下げられましたから、特に土地の値段が高い都市部では、この特例を使えるかどうかは、従来にも増して大きな意味を持つことになりました。 ただし、今例に挙げたような「子どもが親の自宅を引き継ぐ」というのは、まだ単純なケースといえます。小規模宅地の特例というのは、実は要件の解釈が非常に複雑、難解で、「どこまで認められるのか?」が分かりづらいのです。

適用範囲は、意外に広い

小規模宅地の特例が分かりづらいのは、なにも一般の方に限ったことではありません。法律や税のプロでも、首を傾げてしまうことが、けっこうあるのです。私事で恐縮ですが、私は小規模宅地の特例に関する本を何冊か書いています。税理士さんを対象にしたセミナーの講師もやります。そんな場で「例題」を出すと、誰一人正解者なし、などということも起こるんですよ。小規模宅地の特例の難しさは、そうしたレベルなのだということを、まずは理解していただきたいと思います。
 
さて、しかし、そのことは言い方を変えれば、「小規模宅地の特例は、きちんと解釈すれば、けっこう広く使える」制度であることを意味しているんですね。だからこそ、税理士などの専門家ならば、「これは適用外だろう」と即断してしまうのではなく、「小規模宅地の特例を使える可能性がないだろうか」と、細部にわたって検討してみる姿勢が必要だと私は思っています。繰り返しになりますが、使えるか否かで不動産の評価額に、天と地ほどの差が出るのだから。

ちなみに、小規模宅地の特例を使おうと思ったら、申告期限までの当初申告できちんと対応する必要があります。「更正の請求」(*)はできませんので、念のため。申告後に「特例が使えたではないか!」ということになっても、後の祭りです。「どうかな?」と感じるようなケースでは、この道に詳しい専門家にアドバイスを受けることをお勧めします。

*更正の請求
税の申告後、納めた税金が高すぎた場合に、税務署に対して還付の請求を行うこと。

◆姪っ子夫婦との二世帯住宅、「小規模宅地の特例」は使える?

たくさんのプロが間違えた事例

いきなりですが、問題をお出ししましょう。次のような場合に、小規模宅地の特例は適用されるでしょうか?
 
ごく簡単に言うと、「おばさんが、自分の土地に、姪っ子夫婦と二世帯住宅を建てました。おばさんが死んで、姪がその土地を相続する時に、小規模宅地の特例は使えますか?」というものです。
 
小規模宅地の特例について少し勉強した方ならば、相続においてそれが適用されるのは、「亡くなった親と同居していた子どもや、同居していなくても賃借物件に住んでいる子どもが、自宅を相続する場合」といった「公式」が頭に入っているかもしれません。この「問題」の“肝”は、「相続になった時、小規模宅地の特例が使える親族はもっと幅広い」「では、どこまで認められるのか?」ということです。実は、これには税理士、弁護士、公認会計士など多くのプロが首をひねり、「誤答」を連発したんですよ。
 
最初に断っておきますが、これは、私が実際に経験した案件をアレンジしたもので、必ずしも特殊事例ではありません。少子化が進んで、子どもがいない家庭も増えていますから、今後、似たようなケースは確実に増えるだろうことも、容易に想像がつきます。何より、「小規模宅地の特例とはこういうものか」ということを理解していただくのに好例だと思い、最初に紹介させていただくことにしました。

「姪の夫」が家を建てる

状況を整理しておきましょう。すでに夫は亡くなり、自宅を相続して暮らす高齢の女性がいました。仮にAさんとします。彼女は、古くて広い家に一人暮らしをしていました。ところで、子どもができなかったAさんは、姉の子ども、すなわち姪のことを、わが子のようにかわいがっていました。その姪っ子は、結婚して専業主婦をしていましたが、夫婦は手狭なマンション暮らしで、「一戸建てに住みたい」が口癖です。
 
そこでAさんは、考えたんですね。古い自宅を取り壊し、今住んでいる土地に姪夫婦と二世帯住宅を建てたらどうだろうか、と。姪の夫は乗り気で、「自分がローンを組んで、家を建てていい」と言ってくれました。姪も「喜んで、おばさんの面倒をみる」と、「同居」を快諾です。Aさんには姉(姪の親)と弟がいましたが、「土地はすべて姪に譲る」という遺言書があれば、相続も問題なし。双方にとって、まことに好ましいプランでしたが、ネックは、「その相続時に、小規模宅地の特例が使えるのか?」ということでした。土地の評価額は約1億円。特例が使えれば80%カットの2000万円ですから、相続税はかかりません。しかし、適用されずに相続税納税となると、姪夫婦にはその資金の確保が難しい、という状態だったんですね。
 
さて、小規模宅地の特例の適用、可か不可か? 実は、専門家が頭を悩ませたのは、「当該被相続人の親族」という、特例の適用要件に関する規定でした。「小規模宅地の特例が適用される『親族』とは、被相続人からみてどこまでをいうのか?」、このケースでは、「おばさんからみて、実際に二世帯住宅を建てる“姪の夫”は、『親族』に当たるのか?」ということなんですね。 さあ、いかがでしょう? 答えは、次でお話しすることにします。

「姪の夫」は「親族」なのか?

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夫に先立たれた子どものいないAさんが、かわいがっている姪夫婦のために自分の土地を提供して、二世帯住宅を建てて住もうと思い立ちました。Aさんは、自分が死んだら、土地を姪に譲ろうと考えています。問題は相続税。「小規模宅地の特例」が使えれば、およそ1億円になるその土地の評価額は2000万円程度まで減額できるため、税金はかかりません。しかし、使えなければ、相続税が発生し、その支払いが困難な状況になってしまう。はたして、この場合、「特例」は使えるでしょうか?――という事例でした。
 
この場合、キーになるのは、実際にローンを組んで住宅を建て、姪とともに住む「姪の夫」が、Aさんからみて「親族」に当たるのかどうかである、ということも、さきほど述べましたよね。親族ならば適用されるし、違ったら残念ながらアウト、ということなのです。

では、「親族」の定義は?

では、親族の定義は何なのか? 民法725条に、「次に掲げるものは、親族とする」という定めがあります。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族(本人の配偶者の三親等内の血族、本人の三親等内の血族の配偶者)
 
「血族」とは、その名の通り「血のつながった人」「血縁者」のことです。「親等」については、表(*1)を参照してください。付言しておけば、ここでいうのは法的な血族=法定血族のことなので、「血のつながりのない養子」も血族になります。逆に、生物学的な親子関係があっても、非嫡出子については、父親の認知があって初めて父親との血族関係が認められるんですね。また、「姻族」とは、「妻の両親」のような「配偶者の血族」と、「兄の妻」のような「血族の配偶者」をいいます。
 
さて、あらためて「姪の夫」はどうでしょう? Aさんからみて、姪は三親等の血族。その夫は、「三親等内の血族の配偶者」にほかなりません。見事、親族にギリギリ「当選」です。小規模宅地の特例は適用可能でした。
 
調べれば「そうなんだ」という話なのですが、特に「姻族」には注意が必要なんですよ。「おばの姪」はまだしも、その「夫」となると、「親族じゃないだろう」と早合点してしまう人が、税理士や弁護士などの専門家にも、少なくないのです。
 
繰り返しになりますが、住むのが親族であれば、他の要件を満たす限り、小規模宅地の特例が使えます。そこに不理解があったために、大きな「損害」を被ってしまった、というようなことにならないために、「もしや」と思う人はチェックしてみましょう。

*1 親等

「建てたのと住むのが別人」でも適用される

税理士でも迷う。  しかしメリット大の「小規模宅地の特例」(居住用)

子どものいないおばのAさんが、かわいがっている姪夫婦と住む二世帯住宅を建てるために、自分の土地を提供する。ローンを組むのは、姪の夫。Aさんの死後、姪に土地を相続させようとしたら、小規模宅地の特例は使えるか?「家を建てる姪の夫は、おばからみて親族なので、答えはOK」というのが、さきほどまでのお話でした。ここからは、今の事例を基にした応用編です。
 
小規模宅地の特例を受けるためには、建物の所有者も居住者も、親族でなければなりません。今回、「二世帯住宅を建てる」つまり住宅の所有者になるのは、姪の夫でした。当然、彼はそこに居住もしますから、その点でも問題なしです。 ただし、この「所有者」と「居住者」は、同一人物である必要はないんですよ。例えば、姪の母親、Aさんの姉が貯金をはたいて住宅を建て、実際には姪夫婦が住む。この場合でも、Aさんの姉および姪夫婦は、全員Aさんの「親族」ですから、Aさんの相続の時には、やはり小規模宅地の特例が「使用可」なんですね。
 
「複雑」「難解」といわれる小規模宅地の特例なのですが、法律の条文などをきちんと見ていくことによって、逆にお話ししてきたような“柔軟性”を、そこに見出すこともできるのです。

「負担付死因贈与契約」の活用を

この事例の相続について、補足しておきましょう。前々回説明したように、Aさんには姉(二世帯住宅で同居する姪の母親)と、弟がいます。子はおらず、親はすでに他界していますから、このままの状態で亡くなったら、相続人はこの二人ということになります。Aさんの意に反して、二世帯住宅が建つ土地は、姪が相続できないことになるかもしれません。
 
そうならないためには、「土地は姪に譲る」という遺言書を、しっかり残す必要があるでしょう。ちなみに、このケースでは、そういう遺言があれば、遺留分(*)の問題は発生しません。民法の定めにより、兄弟姉妹には、相続人であっても遺留分は認められていないからです。 それでも「心配」だったら、遺言書と合わせて「負担付死因贈与契約」を結んでおけばいいでしょう。簡単に言えば、「私が死んだら、この土地はあなたにあげます。その代わり、ちゃんと面倒をみてね」「分かりました」という気持ちを、正式な契約の形にしておくのです。
 
まあ、Aさんの場合は、そんなことはないでしょうけれど、遺言書というものは、被相続人の気が変わったら、書き換えることも可能です。でも、一生懸命面倒をみたのに、「やっぱりあなたにはあげない」では、あまりにも理不尽ですよね。実際、そうしたことも起こっているのですが、その「抑止力」になるのが、今述べた契約です。昭和57年(1982年)には、「書き換えた遺言書より、負担付死因贈与契約の中身が優先する」という最高裁判決が出ています。

*遺留分
民法に定められた、相続人が最低限相続できる財産。

◆息子の妻の父親との二世帯住宅、「小規模宅地の特例」は使える?

「心温まる同居」だが……

税理士でも迷う。  しかしメリット大の「小規模宅地の特例」(居住用)

「小規模宅地の特例」に関して、やはり実際にあった、こんな事例はいかがでしょうか?
 
長男夫婦と同居する、高齢のご夫婦。旦那さんを甲さんとします。さて、甲さん一家で、「自宅が古くなったので、そろそろ建て替えようか」という話が持ち上がりました。すると、長男のお嫁さんが、こんな相談を持ちかけてきたんですね。 「うちの父――乙さんとしましょう――は、3年前に母を亡くして一人暮らしです。体も弱ってきたので、引き取れないかと思っているんですよ。実家を売れば3000万円ほどにはなります。そのお金で、ここに家を建てて、いっしょに住まわせてもらうわけにはいかないでしょうか」。具体的には、甲さんの土地に、甲さんと乙さんが半分ずつお金を出し合って、共有名義の二世帯住宅を建てます。その片方の家に今まで通り甲さん一家が住み、もう片方には乙さんがひとりで住む――というプランでした。
 
従来あまりなかった二世帯住宅の住まい方ではありますが、奥さんが一人っ子だった場合などには、十分ありうる話です。これからそういうニーズは、ますます増えてくるでしょう。合理的だし、心温まる話でもありますよね。 問題は、この場合、甲さんが亡くなった時に、小規模宅地の特例は使えるのか? 「使える」となれば、住宅メーカーがこぞって「『特例』が使えますよ」と、このパターンの二世帯住宅造りを推奨することになるかもしれません(笑)。

親族と親戚は違う

ここで、前々回の話を思い出してください。「特例」が受けられるのは、建物の所有者、居住者が「親族」である場合です。もし、乙さんが亡くなれば、彼の共有持分の所有権は、娘さんが相続するでしょう。彼女、すなわち「長男の嫁」は、甲さんからみて「一親等の配偶者」ですから、「三親等内の姻族」という親族の要件を満たします。小規模宅地の特例が堂々と使えることになるんですね。問題は、乙さんが存命中に、甲さんが亡くなって、相続になった場合です。甲さんからみて、乙さんは親族といえるのか?
 
結論を言えば、「NO」です。 これも前に述べましたが、「姻族」とは①「配偶者の血族」および②「血族の配偶者」のこと。「妻の親」とか「兄貴の嫁さん」とかですね。しかし、「長男の嫁の父親」というのは、①にも②にも該当しません。むろん、血のつながった血族ではないですよね。残念ながら、親族ではないのです。これも感覚的に捉えていると間違うのだけれど、法で定められた「親族」と、「親戚」の概念の違いに注意する必要があります。
 
ということで、このケースでは、小規模宅地の特例は使えません――。と断定してしまっては、心温まる話に水を差します。それでも、「特例」が適用になる可能性のある、やや「裏ワザ」的な手法を、次にご紹介しましょう。

まず、所有者を移す

税理士でも迷う。  しかしメリット大の「小規模宅地の特例」(居住用)

長男夫婦と同居する甲さんが、長男の妻の父親乙さんと資金を半分ずつ出し合って、自宅を甲・乙共有の二世帯住宅に建て替えた。一方には甲さん一家が住み、もう片方には乙さんが住む。甲さんが亡くなって相続になった時、小規模宅地の特例は使えるか? 答えは「NO」――というのが、さきほどご紹介した事例でした。二世帯住宅の一方の所有者であり、実際に住んでいる乙さんが、甲さんからみて「親族」には当たらないからです。
 
でも、「父を身近に住まわせたいという親思いの娘」「そのお嫁さんの意を酌んで、自分の土地に二世帯住宅を建てた義理のお父さん」の気持ちを考えれば、なんとか「救って」あげたい気がします。実は、方法がないわけではないんですよ。
 
まず、乙さんが、自分の共有持分を、相続時精算課税(*)で娘さんに贈与するのです。そうすれば、二世帯住宅は甲さんと乙さんの娘さんの共有名義ということになります。さきほども述べたように、「息子の妻」は、甲さんからみて「一親等の血族の配偶者」ですから、「親族」に含まれます。「建物の所有者が親族」という要件は、これでクリアできました。 では、もう一つの「居住者が親族」という要件のハードルを、どう越えるのか? ここからが「裏ワザ」です。

子どもは小学生か高校生か?

キーマンになるのは、意外にも長男夫婦の子どもなんですよ。夫婦に子どもがいて、その子が高校生以上の年齢ならば、十分、実現可能性のあるやり方。ただし、まだ小学生だったら、残念ながらこの「裏ワザ」を使うのは、ちょっと難しいでしょう。 何をするのか分かりましたか?
 
答えは、「子どもを、乙さんといっしょに住まわせる」でした。高校生ともなれば、「自分の部屋」で、独自の世界をつくりあげているでしょう。その空間を、丸ごと乙さんの居宅のほうに移動させてしまうわけです。孫は、問題なく甲さんの親族ですから、「居住者は親族」ということになります。
 
恐らく、子どもは大喜び。親としても、遠くのアパートに住まわせたりするわけではないですから、安心です。孫におじいちゃんの日常的な「見守り役」をやらせられる、というメリットもあるでしょう。これで、相続時に宅地の評価額を80%減らせる小規模宅地の特例が使えるのだから、一石二鳥、三鳥のプランだともいえます。
 
あえて言っておけば、この場合、「親族ではない乙さんも住んでいるじゃないか」と税務当局がクレームをつけることは、まず考えられません。逆に、事実認定で疑いを持たれないよう、「本当に住む」ことが条件になります。「住んでるふり」はダメですよ。小学生が無理なのは、「おじいちゃんと同居」というシチュエーションが、客観的にみてあまりにも不自然で、実際にもほとんどありえないからにほかなりません。

*相続時精算課税
贈与時に贈与税を納め、贈与者が死亡した時には、贈与財産を含めて相続税を計算したうえで、この相続税といったん支払っていた贈与税の差額を納付する、または還付を受ける納税方式。

◆「元夫の親族」との関係は、「離婚」と「死別」でこれだけ違う

「先妻の子」に相続したい

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今回も「なさそうで、実際にはけっこうある話」をします。先妻との間にできた子どもを連れた男性と、再婚した女性がいました。最初は3人仲睦まじく暮らしていたのですけど、やがて夫が暴力を振るうようになり、離婚。でも、結婚当初、まだ幼かった先妻の子は愛おしく、離婚後もいっしょに暮しています。仮に、彼女をAさん、先妻の子をB君としましょう。 Aさんたちが暮らしていたのは、Aさん名義の宅地でした。彼女は、自分が亡くなったら、その宅地はB君に譲りたいと考えています。宅地をB君に相続させるためには、どうしたらいいでしょうか?
 
「先妻の子」は、相続人ではありません。もし、誰か相続人がいれば、住んでいる家はその人たちのものになるでしょう。B君に渡したいと思ったら、「土地建物は、すべてBに譲る」という遺言書を残す必要があるのです。さて、次に問題になるのが、その際に、さきほどまで話してきた「小規模宅地の特例」が受けられるか否かです。何度も申し上げてきたように、「居住者であるB君は、Aさんからみて『親族』に当たるのかどうか」が運命の分かれ道になります。

「離婚」で切れる前夫との縁。「死別」だと……

この点に対しては、民法728条1項に「姻族関係は、離婚によって終了する」という明確な規定があります。「姻族」とは、「配偶者の血族」および「血族の配偶者」のこと(*)。この場合は、離婚したことによって、「夫(配偶者)の子(血族)」ではなく、“アカの他人”になったことを意味します。つまり、AさんにとってB君は、親族ではないんですね。今のままでは、「小規模宅地の特例」は使えません。
 
では、自宅の相続を諦めるしかないのか? そんなことはありません。B君と養子縁組すればいいのです。そうすれば、法的には実子と同じ扱いになるのです。実は、この「養子にする」というのは、ある意味最もシンプルな解決策で、親族どころか、一気に相続人になることができるんですね。仮に他に相続人がいなければ、遺言書がなくても、自宅の土地建物を相続することができるわけです。
 
お話ししてきたのは、再婚した夫と離婚した場合。では、これが「死別」だったらどうでしょう? 実は、状況は違ってくるんですよ。さきほどの民法728条の2項には、こうあります。 「夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする」 裏から読むと、「姻族関係を終了させるためには、その意志を表示する必要がある」ということ。この規定に基づいて、戸籍法96条には、「姻族関係終了届」に関する規定が設けられているんですね。 要するに、この届けを出さない限り、姻族関係は切れません。親族のままだから、小規模宅地の特例も使うことができるのです。
 
自分たちの意志で選んだ「離婚」と、望んだわけではない「死別」。それによって、「元の配偶者の家族」との関係まで変わり、相続にも影響してくるわけです。このように、ある種情緒的な部分が堅苦しい法文にまで反映するというのも、けっこうあることなんですよ。これからも、そんな“法律の機微”まで見逃すことなく、依頼者にとってベストのアドバイスができるよう、心がけていきたいと考えています。

*民法上、親族と認められる姻族
「三親等内の姻族」すなわち「本人の配偶者の三親等内の血族」「本人の三親等内の血族の配偶者」は親族となる。
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