あの時こうしていれば……
後悔がつきものの相続だけど

あの時こうしていれば……  後悔がつきものの相続だけど

2017/8/15

 
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人がいつ亡くなるか? いつ相続が発生するのか? 正確に予測することは不可能です。それだけに、「節税のために、できる対策がこんなにあったのに」「早く決断すればよかった」といった“嘆き節”を生みやすいのも、相続の難しいところ。今回は、そんな「もったいない相続」の事例を中心に、にいむら会計事務所の新村貢一先生にうかがいます。

◆親子の感情の機微が “迷い”を生んだ

会社に2000万円を貸していたお母さん

「後悔先に立たず」という相続も、けっこう多いようです。
そうですね。こんな事例から紹介しましょう。会社を経営している男性の母親が亡くなって、相続になりました。相続人は、その会社の創業者でもある父親と、その男性と弟の3人です。
息子さんが、お父さんから事業を承継していたわけですね。
そうです。当事務所は、その会社の顧問をしていたのですが、ご両親とも高齢でしたから、亡くなる5~6年ほど前から「そろそろ相続対策を始めてはいかがですか」という提案もしていたんですよ。最も気になったのは、お母さんが会社に対して貸し付けていた2000万円でした。詳しい理由は定かではありませんけど、お母さんはけっこう個人の資産をお持ちで、経営が厳しい時にお金を出したのでしょう。ただいずれにしても、もしそのままの状態で彼女が亡くなると、それは丸々相続財産にカウントされることになります。
「返してもらえるはずのお金」なのだから、「財産」だということですね。
でも、債権を相続した人が本当に返してもらえるのか、確たる保証はありません。まあこのケースは家族間のやり取りですし、会社に貸したお金ですから、そのリスクは社長である長男が甘受するとして、問題は相続財産が膨らめば、それだけ支払う相続税の金額も大きくなるということです。もし、生前に打てる手があるならば、こうした性格の「財産」はできるだけ処理しておくに越したことはありません。
 もちろん、すべての場合にそんな妙手があるわけではありませんよ。でも、この事例では、2000万円をきれいに「消す」方法があったのです。
どんな方法でしょう?
実は、息子さんの経営する会社は、やはり経営が思わしくなく、2000万円を超える繰越欠損金(※1)を抱えていたんですね。この状態だと、お母さんが債権放棄を行えば、貸し付けていたぶんをそっくり相続財産から外せるうえに、会社のほうも欠損が減るだけで、新たに法人税が課せられるといった問題は起こりません。
※1 繰越欠損金
欠損金(赤字)を控除として、翌年以降に繰り越したもの。翌年以降、課税所得(黒字)があれば、それと相殺することができる。

しかし、とっておきの対策は実行できなかった

会社の赤字続きが幸いしたというのは、皮肉なことでしたけど……。
ところが、結果的にこのスキームを使うことはできなかったのですよ。息子さんには何度か「この提案について、ぜひお母様と検討してみてください」と話していたのですが、曖昧な返事をいただいているうちに1年たち、2年が過ぎ、とうとうお母さんは亡くなってしまいました。そうなると、もうどうしようもありません。貸付金を含めて1億数千万円の遺産を、親子3人で相続することになりました。
 息子さんは、ある時ぽつりと「借りた手前、なんとか返したい」ということをおっしゃっていたんですよ。おそらくそんな思いもあって、お母さんになかなか率直な話ができなかったのではないでしょうか。
お母さんのほうは、どんなお考えだったのでしょう?
息子さんからきちんと話があれば、問題なく判を押してくれたはずです。特に親子関係が険悪だったというような話は聞いていませんし、よしんば返済してもらったとしても、もう90歳近くでしたから。
息子さんからみても、返しても結局母親の相続財産になって、税金を支払って戻ってくるだけ。損得勘定だけ考えれば、会社の欠損金と相殺するのとどちらが有利かは明らかでしょう。にもかかわらず、「返したい」という気持ちから、決断できなかったわけですね。ある意味、良心的という気もします。
でも、相続全体に目を広げると、“紙一重”でもあったんですよ。被相続人の相続財産が膨らんで、正確に言うと縮小できずに「被害」を被ったのは、長男だけではないのです。弟さんの相続税の支払い額にも影響したんですね。ちなみに、弟さんがこの貸付金のことを知ったのは、お母さんの相続になってからです。
よくありますね。相続になって新事実が明らかになり、「何だそれは!」と争いが勃発することが。
この事例では、もともと兄弟仲もよくて、弟さんが理解を示してくれたため、遺産分割自体はスムーズにいきました。当然、「焦げ付いた」2000万円の債権は、兄が相続することになりましたけれど。それで済んだのは、あえて言えば「不幸中の幸い」だったのかもしれません。

◆わずか数日が、運命を分けることもある

対策を急いだのに、間に合わなかった!

あの時こうしていれば……  後悔がつきものの相続だけど
今のは、相続対策の決断を迷っているうちに機を逸してしまったというパターンでした。一方、対策を急ぎ進めたにもかかわらず、ギリギリで間に合わなかったという事例もあります。これは、当事務所が相続発生以降に担当した案件なのですが、被相続人は、高齢の資産家女性です。旦那さんはすでに他界していて、相続人は息子が2人。
 この女性は、内臓を患って入院生活を送っていました。特に余命宣告をされたわけではないのですけれど、そんなに長くはないことも自覚されていたようで、相続対策として、手持ちの現金でマンションを購入しようと考えたんですよ。
相続の際には、不動産は実勢価格よりも安く評価されるので、現金で持っているよりも有利ですよね。税金計算のベースとなる遺産総額を低く抑えることができますから。
同時に、その物件をサブリース契約で賃貸する計画で動いていました。そうすれば、「小規模宅地等の特例」(※2)の「貸付事業用宅地」に該当し、評価額をさらに50%も減額することができるのです。このマンションの購入額は1億円弱でしたから、節税効果はかなり大きなものになるはずでした。
ということは、マンションを買うことはできたのですね。
はい。ところが、「小規模宅地」の適用が間に合わなかったのです。数年前の話なのですが、マンション購入契約をしたのが7月10日、相続の発生つまりお母さんが亡くなったのは、6日後の16日でした。
確かにギリギリですね。
実は息子さんは、特例の適用も間に合ったと思っていたのです。14日には、購入を仲介した不動産業者とサブリースの契約も済ませていましたから。ところが、実際のリース契約の開始は23日からになっていることが、税務申告間際になって判明したんですよ。息子さんは驚いて、不動産業者に抗議もしたのですが、これも契約がそうなっていた以上、どうしようもありませんでしたね。そのあたりは業者任せにしていたようなのですが、実際のリース会社とのやり取りや契約に一定の時間は必要だというのが、彼らの言い分でした。
※2 小規模宅地の特例
一定の要件を満たした時に、相続する不動産の相続税上の評価額を削減できる特例。「特定居住用宅地」「特定事業用宅地」「貸付宅地」などが定められている。

ここにも「共有名義」のモンダイが

お話をうかがうと、かなり切羽詰まってから、急ピッチで事を進めようとしたという印象です。やはり、相続対策はなるべく早く着手して、時間をかけて行うのがベターという教訓でもありますね。
その通りなのですが、この事例の場合には、「急ピッチ」にならざるをえない事情もあったんですよ。被相続人がマンションを購入した資金は、ずっと以前から彼女の手元にあったものではないのです。いきなり多額の現金が入ってきたので、このままでは相続税が大変なことになってしまう、と。
だから、急いで不動産を買って対策を打とうとしたということですか? どんな事情だったのか、教えてください。
今回の被相続人には、弟さんがいました。で、お父さんが亡くなった時に、彼女たちは自宅と賃貸マンションを相続しているんですね。両方とも持分が2分の1ずつの「共有」です。
あ、共有名義の不動産ですか。あまりいい予感がしません(笑)。
彼女たち自身は、それぞれの家族が全員その自宅に同居するくらい仲が良かったのですが、結果的には親から譲られた不動産を共有名義にしたことが、今回の相続に影響してしまいました。
 それについてお話しする前に、不動産を共有名義にすることの問題点をあらためて述べておくと、まず共有者全員の承認がなければ、売却はできません。土地の場合は勝手に建物を建てることはできませんし、建物は壊したり改築したりすることもNGです。
 また、共有者の誰かが亡くなれば、共有の持分は子どもなどに相続されることになるんですね。その結果、放っておけば共有者はどんどん増えていきます。
いつまでも共有者みんなが「仲がいい」保証は、どこにもないわけですね。実際に、トラブルに発展するケースが少なくないと聞きます。
その通りです。さて今回の事例ですが、問題になったのは賃貸マンションの売却です。実は、姉が病に倒れる以前、姉弟は「いついつまでに売却しよう」という話を進めていたんですよ。弟のほうは、それを前提に資金計画を練り、いろんな投資などを考えていたようです。ところが、そんな矢先にお姉さんは病に伏し、どうやら先が長くない状態になってしまったわけですね。
 この場合、お姉さんの相続だけを考えるのならばマンションの売却は少し先送りにして、相続が終わってからそれを行うのが最良でした。賃貸物件ですから、相続では、さきほど説明した「小規模宅地等の特例」が使えます。家族ぐるみで同じ屋根の下に暮らしていたくらいですから、売却について弟さんとお姉さんの子どもたちとの話し合いになっても、こじれたりすることはなかったと思うのです。
でも、売却の延期はできなかったのですね。
弟さんのほうにも、いろんな事情があったのでしょう。お姉さんにしても、「相続が終わるまで待って」とは言い出せなかったのだと思います。
なるほど。相続の間際になって多額の現金を手にすることになった事情が、よくわかりました。そのオフィスビルが単独名義だったなら、そういうアクシデントは起こらなかったはず。
このケースならば、亡きお父さんは、例えば自宅はお姉さん、ビルは弟さんというように相続させるのが、やはり賢明だったのではないかと感じます。

念のため、税務調査に備える

元々の相続のほうに話を戻すと、思わぬ形で相続財産が膨らんでしまいましたが、息子さんたちの遺産分割協議はうまくいったのでしょうか?
ええ。おかげさまで、この事例でも揉めることなく、基本的に息子さんたち2人で2分の1ずつ分けて、申告もつつがなく終わりました。ただし、相続は必ずしも「税金の申告が終わったからそれですべてがおしまい」ではないんですよ。例えば、税務署が税務調査にやってくることもあります。
先生の事務所は、税務調査対応にも実績をお持ちですよね。そもそも税務調査って、どんなものなのでしょう?
個人や法人が税金の申告を行った後に、その中身が正しいのかどうかを調べるわけですね。税務調査には、国税局査察部、通称マルサが令状を手にやってくる「強制調査」もありますが、普通問題になるのは、納税者の同意を得て行う「任意調査」です。
 時間とコストをかけて調査に入る以上、税務当局としては、申告の誤りを見つけて税金を追徴したい。ですから、やみくもに「狙われる」わけではないんですよ。相続に関しては、やはり遺産額の大きな案件、不動産のウエイトが高い相続は、ターゲットになりやすいパターンの1つと言えるでしょう。
さっきの事例では、亡くなる直前にマンションを購入しています。
だから、税務調査の可能性を頭に入れておく必要があるのかな、と考えました。聞いてみると、その物件の購入契約を結んだ時、被相続人は病院のベッドの上で、字を書くのもままならない状態だったそう。売買契約書は、相続人である息子さんが代筆していたというのも、少し気になるところでした。お母さんは、体は弱っても頭はしっかりしていましたし、司法書士の先生が付き添ったということなので、不動産契約自体が問題にされることはないとは思いましたが、当時は私たちが関与していなかったこともあり、何が出てくるかわからない怖さもあったわけです。税務署は、いろんなところを突っ込んできますから。
 実は、そのマンションを相続した息子さんは、それをすぐに売却して、お金に変えようという気持ちだったんですよ。それを元手に、自宅を建て替えたいと。でも、私は「売却は、2年待ちませんか」と提案しました。
それはなぜでしょう?
税務署は、申告後すぐにやってくるわけではありません。たいてい1年後か2年後、それ以降に調査に入ることもあるんですね。税務調査の結果、仮に申告にミスがあった場合には、足りなかった税を支払うだけではすみません。過少申告加算税や延滞税といったペナルティも覚悟しなければならないのです。それらの支払いに対応できるだけの現金が手元にあればいいのですが、この方の場合は、心許なかった。不本意ながらそうなってしまった時に、その物件を売って納税資金を捻出できるように、不動産はそのままにしておきましょうということなんですよ。
 まあ、2年たてば、調査に入られるリスクはかなり小さくなります。このケースも、結局税務署の「お咎め」はありませんでした。

◆やるべきことをやらないと、後々“時限爆弾”が……

7年前の相続が蘇った!?

あの時こうしていれば……  後悔がつきものの相続だけど
さて、次に紹介するのは、ある意味「相続対策」以前の問題というか、相続人全員が「そういえば……」と盲点を突かれた事例です。
 当事務所で確定申告のお手伝いをしていた女性のお母さんが亡くなって相続になり、関与することになりました。相続人は、その女性と弟さん2人、それから数年前に養子縁組をしていた女性の子ども、お母さんからみれば孫の4人です。わざわざ孫を養子にしたのは、相続対策からでした。民法上、養子も実子と同じ扱いで、法定相続人になれますから。
相続人が増えるほど、相続税の基礎控除額(※3)が大きくなりますから、相続税が発生しても支払額を減らすことができます。でも、そこまでやった方が見落としていた「盲点」って、いったい何でしょう?
問題は、そこから遡ること7年前に発生した、今回亡くなったお母さんの旦那さん、依頼者のお父さんの相続にあったんですよ。兄弟たちにとっては、一次相続です。ちなみに、子どもからみて両親のどちらか一方が亡くなって発生するのが一次相続、残った親のほうは二次相続。今回のお母さんは、二次相続ということになります。
 では、何が問題だったのかというと、その一次相続の時に、まともな遺産分割協議が行われていなかったのです。主な財産である自宅と、それとは別にお父さんが所有していた賃貸用の不動産の登記も変更されていない状態だったんですね。
一次相続の相続人は、配偶者である今回亡くなったお母さんと、娘さん、息子さん2人ということになります。特に遺産を分けなかったのは……。
自宅にはそのままお母さんが住み続けるわけだし、特に遺産分割の必要性を感じなかったのでしょう。財産としての評価額が高くなる自宅の土地については、お母さんの名義になっていたこともあって、一次相続では相続税も発生しないから、税務署に申告の必要もない。だから、「まあいいか」という感覚だったのだと思います。あえて付け加えれば、とても仲の良い家族で、「あれをよこせ」という話にもならなかったのです。
二次相続では、その土地も相続財産にカウントされるわけですね。だから、孫を養子にまでして対策を打った。ところが、考えてみたらお父さんの財産が未分割だから、そもそもお母さんの財産の総額もわからない。困りましたね。仲の良さが裏目に出てしまいました。
あらためて調べてみると、一次相続の時のお父さんの財産は、自宅の建物と賃貸していた不動産が大半で、現金などは僅かでした。となると、一次相続のポイントになるのは、賃貸マンション。これに関しては、そこから得た家賃収入が、亡くなったお母さんの口座に入っていましたから、彼女が相続した形にするのが自然です。ですから、その形で一次相続の遺産分割をまず確定し、それに基づいて二次相続を進めたんですよ。最初はどうなることかと思いましたけど、結果的には問題なく申告まで終わらせることができました。
※3 相続税の基礎控除額
課税のボーダーラインとなる遺産総額。「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこれ以下なら相続税はかからない。

一歩間違えば、「争続」になっていたかも

ただしこのケースも、一歩間違えば、やっぱりドロドロの揉め事になっていた危険性があるのです。今回、一次相続と二次相続の相続人の顔ぶれは、ほぼ同じでしたよね。
一次相続で相続人だったお母さんが、二次では被相続人になり、新しく孫が相続人に加わりました。変更は、それだけでした。
あくまでも仮にのお話ですけど、二次相続までの間に、依頼者の弟さんのどちらかが亡くなったとします。被相続人の「子ども」といっても、すでに60歳代になっていますから、ありえない話ではないでしょう。で、彼にもし子どもがいたら、「代襲相続」(※4)といって、その人が相続人になるんですよ。事例のケースでは、一次相続の遺産分割に、その方の合意が必要になるのです。
 相続について、子が親と同じ感覚を持っているとは限りません。「実は祖父が持っていた不動産の相続が未確定で、自分も相続人に名を連ねている」という事実を知ったら、どうでしょう?
年齢的にも30~40歳代くらいでしょうから、「取り分はください」と堂々と主張してくる可能性はありますよね。何年も前の、すでに終わっているはずの案件をほじくり返すわけですから、余計に話が複雑になる感じがします。
例えばそんな事態にならなかったのは、やはりとても幸運だったのだと考えるべきだと思うのです。
運を天に任せるのではなく、そうしたリスクを未然に防ぐために必要なことは、何ですか?
たとえ相続税の申告が必要のない相続であっても、遺産の分割については相続人の間できちんと結論を出して、その結果を「遺産分割協議書」の形で残すことが大事ですね。
 専門家が関与すれば、作成をサポートしてもらえますが、基本的に書式などに決まりがあるわけではありません。ごく簡単に言えば、遺産の中身と分け方を正確に記して、相続人全員が署名、実印を捺印すればOKです。相続人分を作成して、各自保管するようにすれば、後日「話が違う」ということにはならないはずです。
※4 代襲相続
本来、血族として相続人になるはずだった人が、相続開始以前(同時死亡を含む)に死亡していた時などに、その子や孫が代わって相続人になる、という制度。被相続人の子が亡くなっていたら、その子(被相続人の孫)が、兄弟が亡くなっていたら、その子(同じく甥、姪)が、相続の権利を持つ。

「小規模宅地等の特例」の適用は断念した

この相続では、もう一つトピックス的な話がありましたので、最後に付け加えておきましょう。自宅に「小規模宅地等の特例」が適用できないか、検討してみたんですよ。
前に「貸付宅地」としてその特例を受けようとしたのだけれど、時間的に間に合わなかった、という事例がありました。今回は、自宅が対象だったのですね。
そうです。「特定居住用宅地」というのですけれど、これもごく簡単に説明すると、「親の住んでいた家を相続して、そこに住みたい。しかし、不動産としてまともに評価されたら、高額の相続税が発生して手放さざるをえない。そこで、一定の要件を満たせば特例の適用を認め、評価額を80%減額しましょう」という制度なんですよ。
 この要件がなかなか複雑ではあるのですが、親と同居する子どもや、同居していなくても借家暮らしをしていた子どもが相続する場合などに、認められることになっています。また、親が老人ホームに入って自宅が空き家になった場合、かつては特例の適用外だったのですが、法改正により、2014年からはその場合も基本的にOKになりました。この事例もそのパターンで、お母さんは亡くなる4年ほど前、老人ホームに入所したのです。
自宅を相続したのは?
養子縁組したお孫さん夫婦です。被相続人がホームに入所してから、空き家になった家で暮らし始めていたんですね。
自宅の評価額を8割減額できるというのは、大きいですよね。この事例では認められたのですか?
いいえ。適用はかなり難しいと判断して、8割減を行わずに申告しました。
このケースでポイントになったのは、「生計を一にしていたか」です。この「生計一」の定義もまた微妙なのですが、たとえ同居していなくても、常に親に対して生活費や療養費などの送金を行っていた場合には、それが認められることになっているんですよ。でも、このケースでは、そうした実態はありませんでした。
養子とはいえ、実際には孫ですからね。
もし税務署に否認された場合、「割引率」が高かったぶん、ペナルティも高額になります。そういうリスクは避けなければなりません。
あえてうかがいますが、税務署は、事前のお金の流れまで、調べるものでしょうか?
評価額の8割減額というのは、納税者にとってはとてもありがたいことなのですが、税務当局からすれば大幅に税収が減ることを意味します。彼らが「おかしい」と感じたら、徹底的に調べられると覚悟してください。金融機関に過去10年間の預金の履歴を照会する権限も持っているので、ごまかそうとしてもまず無理です。

「事なきをえた」ポイントはどこに?

「やるべきこと」がわかっていたにもかかわらず、先送りにしたために多額の税を支払わなければならなくなった相続、急いで対策を練ったものの、間に合わなかったケース――。いくつかの事例を紹介いただきましたが、やはり相続対策は早いうちから準備して、できれば専門家の助けを借りながら適切な手を打っていくというのが、“王道”のようです。
それは間違いありません。ところで、お話しした三者三様の相続ですが、共通するのは、最後はきちんと着地させることができたということです。ある意味「失敗」しながらも、終わってみれば事なきをえたわけですね。
逆に、このようなアクシデントがなくても揉める相続は、枚挙にいとまがありません。
紹介した事例で、もし争いが始まっていたら、ミスがあったぶん収拾がつかなくなっていたと思います。どこまで自覚していたのかは別に、「揉め事を起こさない」という相続人の姿勢が、結果的には「いい相続」を演出したと言ってもいいでしょう。
 私は、このことは、相続において非常に重要なポイントだと思うのです。そもそも相続対策とは言っても、相続人同士いがみ合っていたら、それを実行に移すことなどできませんから。
揉めないことが、最良の相続対策なのかもしれませんね。
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