税理士が、話をややこしくすることもある

税理士が、話をややこしくすることもある

2015/5/21

 
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うちは相続税がかかるのか? 払うとしたら、いくらになるの?――。そんな時に頼りになるのが、相続に詳しい税理士の先生です。でも、税理士も人間。相続人の中の特定の人物に「肩入れ」したりした結果、かえってトラブルを招くことも。税理士の仁科忠二郎先生には、こんな経験があるそうです。

◆突然、「専門家」に攻めたてられる

あれは、すでに奥さんを亡くされていた男性の相続でした。子どもは、娘さんが二人。次女夫婦は、一時、体を悪くした父親に代わって、家業の飲食店を切り盛りしていましたが、相続時には、店を閉めていました。お父さんは、次女の夫を「跡継ぎ」にと考えたのか、彼を養子にしていました。ですから、相続人は、長女と次女、それに被相続人の養子である次女の夫の3人ということになります。ちなみに、お父さんは遺言書を残してはいませんでした。
 
私が相談を受けたのは、結婚して専業主婦になっている長女の方からでした。聞けば、いきなり税理士の名刺を持った人がやってきて、「次女夫婦は、お父さんの家業を継ごうと、大変な思いをした。あなたはお嫁に行って、悠々自適でしょう。お父さんの財産は、次女が大半を相続して当然ですよ」と、まるで遺産を受け取る資格がないとばかりに、一方的に責められたというのです。 お父さんの遺産は、自宅の他に、飲食店が入ったテナントビルに田畑、多少の現預金でした。最後にその税理士さんは、長女に対して、わずかな金額の相続で「我慢」する旨の文書を示し、押印を求めたのでした。
 
相手は「専門家」です。気圧され、半ば恐怖を覚えつつも、判子を押すのだけは思いとどまった長女でしたが、税理士が帰ってからよくよく考えてみると、父親の相続で、どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか、と今度は怒りが込み上げてきたそうです。そこで、「どうしたらいいでしょう」と、私のところにいらっしゃったのでした。

「税理士は遺産分割協議には関与しない」という原則

この税理士さんは、亡くなった被相続人が経営していた飲食店の税務申告などを引き受けられて、25年近くになるのだそう。いったん事業を受け継いだ次女夫婦とも、強いつながりを持っている人であることは、想像に難くありません。
 
とはいえ、当事者同士が相続についての話し合いも始めていない時点で、このように特定の相続人の意を受けて動くなどというのは、考えられないミスとしか、言いようがありません。私だったら、依頼された方の意を酌んで、別の人を「説得」するようなことは、絶対にやりませんね。相手には、私が依頼者の代理人に見えるはず。さらに、感情を燃え上がらせるに決まっているからです。
 
長女の話では、次女夫婦は、被相続人がテナントビルを建てる時、ローンの連帯保証人になっていたそう。次女サイドにはお会いしていないのでこれも推測ですが、夫と養子縁組をしていることも含め、被相続人であるお父さんは、次女夫婦とかなり強い結びつきがあったのだと思います。
 
そういった事情を、たぶんこの税理士さんは熟知していたのでしょう。次女に「お姉さんはお嫁に行ったきりで、気楽な専業主婦。家業を手伝おうとはしなかった」「私たちは、ローンの保証人にもなったのに……」と、その苦労をさんざん聞かされていたのかもしれません。でも、そのことと、税理士がこうした形で遺産分割に関与していいというのとは、話が違います。税理士が報酬を得て遺産分割協議のアドバイスを行えば、弁護士法に抵触する恐れもあるのです。

「行き過ぎ」があれば、税理士会に相談を

私は「まず他人を挟まずに、相続人同士でお話をなさったらいかがですか」とアドバイスしました。さっきも言ったように、この状況で私が出ていったら、争いの火に油を注ぐだけだと考えるからです。 問題の税理士さんに対しては、「これ以上、同じ行動を繰り返すのなら、税理士会に相談します」という、内容証明郵便を出すよう、お話ししました。税理士も資格商売。税理士会は「怖い」存在です。「相談」や「苦情」が寄せられれば、事情聴取ということになり、万が一「綱紀違反」が認められたら、資格停止といった処分を下されることもあるのです。「行き過ぎ」は改められるはず。事実、それ以降は、例の税理士さんから長女の方への連絡はなくなりました。
 
この案件、遺産分割協議自体は、これからスタートです。なるべく争いが起こらないように振る舞うべきプロの行動が、出鼻をくじいた格好で、もしかしたら揉めるかもしれません。でも、こればかりは、相続人の間で折り合いをつけていただくしかありません。 依頼人のために、よかれと思ってやったことが、逆効果になることもある――。あらためて、税理士として相続にどう関わるべきか、深く考えさせられましたね。

◆相続税申告後に、「贈与」が発覚。さて、どうする

突然、税務署から呼び出しが

税理士が、話をややこしくすることもある

遺産分割協議が整い、相続税の申告も終わったのに、それからわずか半年で、「申告書が間違っていますよ」と税務署から呼び出しがあった時には、心臓が飛び出すほど驚きました。遺言書はなかったのですが、協議はスムーズに進んだはずなのに……。もちろん、そんな経験は後にも先にも初めてです。
 
東京都内に持つ土地と、預金を残して、男性が亡くなったのは●年のこと。妻はすでに他界していて、相続人は息子二人の兄弟でした。税務署員に告げられたのは、「弟さんは、お父さんから生前に2000万円を相続時精算課税で贈与されていますね」というひと言。「相続時精算課税」とは、贈与時に贈与税を納め、相続が発生した時に、相続税とすでに支払った贈与税の差額を支払う(もしくは還付を受ける)仕組み。それが記載されていない、というわけです。 調べてみると、確かに、10年以上前に、弟さんへの相続時精算課税による贈与がありました。
 
私が依頼を受けたのはお兄さんのほうで、弟さんとは直接話をしていませんから、なぜ弟さんがそのことを「黙って」いたのか、本当のところは分かりません。もしかしたら、昔のことなので、忘れていたのかもしれません。実際、そんなケースは意外に多い。もちろん、故意に隠した可能性もあります。実は、この遺産分割自体は、かなりの時価になる土地を丸ごと長男が相続するという、常識的に見るとかなりアンバランスな中身になっていました。次男がそれを飲んだのは、「自分だけ贈与を受けた」という、後ろめたさがあったからかもしれません。
 
いずれにせよ、これを税務署が見逃すはずはありません。故意に黙っていたのだとしたら、弟さんの考えは、あまりに浅墓だったと言うしかないですね。結局、相続税の申告は、相続税精算課税に則って、やり直しました。

遺産分割協議の中身は生かす

生前贈与では、「特別受益」が問題になる場合があります。相続人の中に、被相続人から生前贈与を受けた人がいる場合、他の相続人との平等を図るために、贈与された分をいったん相続財産に戻し(「持ち戻し」と言います)、その金額(「みなし相続財産」)を基にそれぞれの相続人の相続額を計算する、というのが特別受益の考え方です。
 
このケースに当てはめてみましょう。仮に被相続人である父親が残した遺産が1億円だったとすると、それに次男への贈与分2000万円を加えた1億2000万円が、「みなし相続財産」になります。二人が2分の1ずつ分けるとすると、一応の相続分は、それぞれ6000万円。しかし、生前贈与分を考慮して、次男についてはここから2000万円を差し引くのです。つまり、実際の相続額は、長男6000万円、次男4000万円となるわけですね。
 
ただ、今回は、遺産分割協議をもう一度、ということにはなりませんでした。さっきも言ったように、相続そのものがお兄さんに手厚いものだったこともあって、さらに特別受益を持ち出して争う、ということにはならなかったのです。

でも、諍いは起こった

遺産分割については、それで一件落着。でも、この一件は、兄弟間に埋められない溝を残すことになってしましました。親の相続になって、贈与の事実を初めて知らされた長男は、文字通り激怒しました。金額ウンヌンではなく、「隠していたこと自体が許せない」というわけです。 次男にしてみれば、「大昔のことで忘れていた」「自分が多く相続できたのだから、いいじゃないか」ということなのかもしれません。しかし、「騙された」ほうは、そうは受け取れなかったのです。 この場合、お父さんにも責任があるように思います。遺言書でなくても、「次男に贈与した」事実は、ちゃんと長男にも伝えておくべきでした。決して仲の悪い兄弟ではなかったのですが、それ以降は「絶交」状態が続いているようです。お金の前に、感情で揉めてしまう。これも相続の怖さなんですよ。

◆「まずビジネスありき」の誘いには、注意が必要

税理士にもビジネスチャンス

税理士が、話をややこしくすることもある

「相続をビジネスにしている人が、世の中には数多くいる」。こんなことを言うと、「税理士がそうじゃないか」と返されそうですね。まさにその通り。今年1月の相続税の税制改正により課税対象者が増えたのは、我々にとって、間違いなくビジネスチャンスの拡大です。
 
ただ、ビジネスには「相談者の利益を第一に考える」という大前提がなければなりません。そういう観点に立つと、やや心配な状況も生まれているように思うのです。 特に、地域の名士や政治家、お医者さんのような方が高齢になったり、亡くなったりすると、どこで聞いたのか、不動産や建設業者の方が、必ずといっていいほど「接触」してきます。「相続税対策でマンションを建てませんか」「納税資金のために、土地を売りませんか」という話をするためですね。
 
もちろん、そうした方々が、みんな悪意を持って儲けようとしている、などとは言いません。ただ、少なくともその「セールストーク」の巧みさは、税理士の比ではないんですね。しかも、不動産業者が相続人のAさんに、「相続税を減らすのは、この手です」と言い、また別の建設業者がBさんに、「こうすれば、あなたが一番得をします」と話すようなこともあります。こうなると、相続人AとBが、それぞれ別の「知恵」をつけて遺産分割協議の場に出てくるわけで、揉める原因になります。お互いに「これが正しい」と信じ込んでいますから、折り合いをつけるのが難しくなるのです。

埼玉の業者が、神奈川の物件に

これは、必ずしも依頼人の不利益になったかどうかは不明なのですが、彼らの商魂たくましさを目の当たりにした経験が、私にはあります。 相続人は男3人兄弟で、依頼人である長男は、東京の大田区在住。被相続人のご両親は、神奈川県に住んでいました。私もそうですけど、息子は娘と違って、親とあまり連絡を取り合ったりはしないでしょう。ご両親は、いわゆる老老介護の末、相次いで亡くなられたのを死後に発見された、というパターンでした。ただ、けっこう資産家で、東京都内と神奈川県に3つずつ、不動産を持っていました。
 
さて、相続税の申告書も遺産分割協議書も作成してほしい、というので契約を交わし、不動産の調査などに入った矢先、なんと全く関係のない埼玉県の小さな不動産屋さんから、「その物件のことで話がしたい」という連絡が入ったのです。何だろう、と不思議に思って会ってみると、どこで調べたのか、亡くなった方の資産にやけに詳しいのです。 数日後、今度は依頼人から、「契約を破棄したい」という申し出がありました。その埼玉の不動産屋さんが懇意にしている税理士に「乗り換える」というのです。事務所としては残念な事態ですが、仕方がありません。
 
おそらく、「不動産物件が多いので、それに強い税理士がいいですよ」という話をされたのではないでしょうか。ご両親の亡くなり方だと、自宅の処分も簡単にはいかない。「こういうケースは、専門家にお任せください」といったメリットを強調したのかもしれません。当事務所も、「不動産に強い」という自負は、十分にあるのですが(笑)。
 
さきほども述べたように、この案件がその後どうなったのかは、知る由もありません。確かに、「不動産サイド」に任せれば、物件の処分などはスムーズに進むかもしれません。ただし、そこには「業者の利益」を優先する、という動機が働きやすいのも事実。勧められるまま、相続税対策で賃貸マンションを建てたものの、収益が挙げられず悲惨な目に遭った、などという話も耳にします。 甘言には惑わされず、冷静に。それも「失敗しない相続」の秘訣だと思います。

◆遺産を「隠して」申告すると……

「兄が遺産を隠している」

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被相続人は父親、母親はすでに亡くなっており、相続人は長男、長女、次女という相続で、こんなことがありました。依頼人の長女が、「兄が父の財産を隠しているのではないか」と言うのです。父親と同居していた長男の書いた「遺産のリスト」が、どうもおかしい、と。聞けば、亡くなる2年前に土地を売却しているし、預金の額があまりにも少なすぎるようなんですね。
 
そこで、各銀行の預金残高を調べてみました。すると、まず分かったのは、被相続人があちこちの金融機関に、分散してお金を預けていたこと。長男以外は、知らない事実です。このように、相続人の知らない銀行口座が、相続になって初めて明らかになるのは、珍しいことではありません。注意しないと、それに気づかずに申告漏れが発生することもあります。
 
時間をかけて調べた結果、長女の方のおっしゃることは、「正解」でした。結局、遺産総額は兄の「申告」の3倍近くに達することが分かったのです。

説得に応じなかったツケ

私のクライアントは、あくまでも長女です。しかし、相続においては相続人全体の利益を考えるのが、税理士の役目。そう考えた私は、長男の説得に乗り出しました。「正しい遺産総額で申告しましょう」「追徴課税になったら、損しますよ」と、何度も話をしたのです。
 
ところが、この方は、「3分の1の遺産」をベースにして、自分の分だけを勝手に申告してしまいました。申告期限(被相続人が亡くなったから10ヵ月)内に遺産分割協議が成立せずに、相続人が個々に申告する、といったアブノーマルな状況を除けば、相続税の申告書は、相続人が共同で提出するのが基本なのにもかかわらず、です。
 
仕方なく、長女と次女の申告のみ、私のほうで行いました。もちろん、「正しい」遺産額による申告です。結果的に、税務署の手元には、遺産総額の異なる2枚の申告書が渡りました。当然、すぐに税務調査が入り、あえなく長男の嘘はバレてしまいました。
 
税金を少なく申告していると認められた場合、ペナルティーはどのくらいになるのでしょうか? 申告額を間違えた場合などには、新たに納めることになった税金の10~15%の「過少申告加算税」がかかります。これが、二重帳簿の作成、帳簿などの隠匿、虚偽記載、改ざん、税務調査での虚偽答弁――といった「仮想隠蔽」の場合には、同じく35~40%の「重加算税」となるのです。このほか、延滞税という、高率の利息相当額も支払わなくてはなりません。結局、彼はこれらをすべて負うことになりました。お金も痛かったでしょうが、妹たちの信用を一気に失ってしまったことは、取り返しのつかない傷になってしまいました。
 
ここまでやる人は、そうはいないかもしれません。ただ、さっきも言ったように、意図せず「申告漏れ」になるケースもあります。これまで対象となった財産には、①遠い昔に買った不動産②昔住んでいたところで作った銀行口座③共有名義の銀行口座④タンスの下から出てきた個人間の貸付証書や不動産の権利書⑤海外の不動産⑥知人や同族会社への貸付金――などがあります。注意してください。

◆相続人以外の「発言権」が争いのタネに

無関係の嫁が主導権を

一昨年申告した相続に、こんな案件がありました。見事な「先生一家」で、亡くなった父もその妻も、長男、長女、そしてそれぞれの配偶者も、すべて大学教授か進学校の教師、という家柄でした。私は、以前から、所得税の申告などを任されていました。
 
お父さんは、資産も半端ではなく、長男夫婦と同居する豪邸のほかに、賃貸マンションや駐車場などの不動産が、10ヵ所以上。預金など、他の資産と合わせて、遺産は10億円を下らない規模です。
 
結論から言うと、今回の遺産分割協議自体は、表立って揉めることはなかったんですよ。不動産は、ほとんどを長男が相続し、現預金は3人の相続人で分配する、という中身。お母さんも、裕福な家にお嫁に行った長女の方も、不服はありませんでした。ただ、遺産分割協議では、ハラハラさせられる局面が、多くありましたね。 ポイントは、「長男の嫁」です。実は、妻は本を書いたり講演をしたりと、長男の3倍近くの収入を得ていました。夫婦の関係もそれに比例しているかのようで、夫は見るからに気弱な「学者タイプ」で、やり手の妻に逆らえない感じが、ありあり。 遺産分割協議が始まると、その夫婦関係が露骨に顔をのぞかせるようになりました。一番驚いたのは、最初にお母さんとご長男に呼ばれてご自宅にうかがった日、いきなり目の前に相続税のシュミレーションをした申告書らしきものが出てきたこと。お嫁さんが懇意にしている税理士さんが作成したものだ、ということでした。お母さんは「あくまでも参考です」とおっしゃっていましたが、お嫁さんからは、他の相続人に、「こちらの税理士のほうが相続税を安くできるから、変えましょう」といった話があったのかもしれません。そうすれば、少しでも、自らに有利に事が運べる、と考えたのではないでしょうか。

ついに遺産分割協議の場に

その後何回か説明にうかがった時にも、息子さんの後ろには、お嫁さんの影がチラチラしてましたね。ご長男の口から、一般の人があまり知らないような「小規模宅地の特例」なんていう単語を聞くと、「ああ、お嫁さんとお嫁さん側の税理士に、吹き込まれたんだな」と感じたものです。
 
そしてある日、ついにお嫁さんが遺産分割協議の場に出てきたのです。さすがにまずいと感じた私は、「これから〇〇家のすべての資産について公開しますが、相続人以外の方がいてよろしいのですか?」とお話しし、結果的には、席を外していただきました。 協議を通じて、長男サイドから、「自分の取り分をもっと多く」といった話が出ていたわけではありません。もしかすると、お嫁さんの本意は、「相続税が心配だから、遺産の全貌を知っておきたい」というところにあったのかもしれません。でも、どんな思いがあったにせよ、彼女は相続人ではないのです。
ただでさえ、家族の微妙な人間関係が絡まり合う遺産相続に、相続自体には「無関係」なはずの人が入り込めば、揉めるリスクが増えるだけ。「遺産相続の話し合いは、相続人同士で」。相続人の配偶者の方も、そして相続人自身も、そのことを肝に銘じてほしいと思うのです。
 
さて、この一家の“火種”は、実はそれだけではありませんでした。不動産のほとんどすべてが、「共有名義」になっていたのです。次は、その問題点についてお話ししたいと思います。

◆ちょっと待った! 不動産の「共有名義」

相続財産のほとんどが「共有」だった

税理士が、話をややこしくすることもある

前述で、私がやった教授一家の相続の話をしました。ちょっとおさらいしておくと、不動産に預金などを合わせて10億円を超える資産家の父が亡くなり、妻と長男、長女の相続が発生。遺産分割協議自体は、すべての不動産を長男が相続し、預金などは3人の相続人が分配することで、それほど揉めることなく決着。ただ、夫よりも収入が多く、立場も強い「長男の嫁」が、協議の場で陰に日向に影響力を行使していた――というストーリーでした。
 
さて、遺産分割協議はまとまり、相続税の申告も無事終ったのですが、実は先行きを考えると、頭の痛い問題が残ったままでした。ご長男の相続した不動産、賃貸マンションや貸店舗、駐車場など、10ほどもある物件のほとんどすべてが、「共有名義」になっていたのです。だから、今回の不動産の相続は、正確には「息子が、それぞれの物件についての、被相続人(父)の持分をすべて相続した」ということなんですね。
 
遺産を調べるために、謄本を取り寄せて、その事実を知った時には、愕然としました。しかも、「妻と共有」ならいざしらず、大半は妻と息子に娘、さらには焦点の「長男の嫁」までが名を連ねていました。こんなに多人数の共有にすること自体、通常では考えられないこと。嫁まで含めたのには、「〇〇家を、しっかり継いでいって欲しい」という、長男夫婦への特別な思いがあったのかもしれません。

共有名義、なぜ問題か?

ただし、そんな思いとは裏腹に、不動産の共有名義は、あとあとトラブルを生むことが、とても多いのです。 例えば、何らかの事情で、名義人の誰かに、物件を売ってお金を作らなければければならない事情が生じても、名を連ねる全員の承諾がなければ、売却することはできません。かつ、名義人が亡くなれば、次の相続が発生することに注意が必要です。その人の配偶者に、子どもにと、元の家族からすると「他人」も含めて、相続人つまり共有名義の人の数が、どんどん増えていくことになるんですね。
 
この一家の場合だと、仮にお母さんとご長男が亡くなれば、ご長女と「長男の嫁」が共有、ということになるかもしれません。そもそも二人は「他人同士」。ご長女は。忙しく子育てもしていましたから、頻繁に実家に顔を見せるというわけではなく、特別に親密な関係を築いているようにも見えません。なんとも微妙な関係の人間が、不動産を持ち合うことになるわけです。そういった可能性を、亡くなったお父さんは、はたして認識していたのでしょうか?
 
私には、そうは思えないのです。 お母さんが亡くなった時に二次相続も含めて、今後、このご家族の資産がどう維持されていくのか、現状では何とも言えません。不動産に関して言えば、理想は、息子さん名義の単有に持っていくことですが、母親や妹は応じても、肝心の妻が首を縦に振るか。悩ましい状況が続きそうです。 繰り返しますが、次の世代以降に想定外の争いを生みかねない、不動産の共有名義は避ける。それが鉄則ですよ。

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