トップへ

遺産相続「先生、教えて!」
遺産相続「先生、教えて!」
知らないと怖い!? 海外資産の相続
知らないと怖い!? 海外資産の相続
日本国内に比べて金利は高いし、運用益も大きい――。そんな理由から、海外に資産を移したり、運用したりする人が増えています。ただし、いざそれを相続するとなると、状況は一変。相続税をはじめとして、いろいろなリスクを背負い込むこともあるようです。現状と注意点を税理士の浅野和治先生に聞きました。
◆総額5000万円を超える、あらゆる海外資産に「報告義務」
2012年度の税制改正の時、「国外財産調書制度」がスタートしたことをご存知でしょうか? 目的は、多発する海外資産に関連する所得税や相続税の申告漏れを防ぐため。毎年、12月31日時点で海外に5000万円を超える財産を持つ場合には、その財産の内訳(種類、用途、所在、価格など)を記載した調書を、翌年の確定申告期限までに税務当局に提出することが義務づけられました。

ただ、初年度(2013年末時点で対象になる人は、翌14年3月17日までに、所轄の税務署長に提出)に届けのあったのは、わずか数千件にとどまりました。意図的に隠すというよりも、そもそも制度新設自体を知らない人が多いのではないか、と推測されます。

とはいえ、この制度の特徴の一つは、罰則規定が設けられていること。調書が未提出だったり、虚偽記載をしたりした場合には、懲役刑や罰金が課せられることになっていますから、注意が必要です。「罰則を設けたのは、税務当局の本気度を反映したものだ」と指摘する専門家もいます。 制度でいう「財産」には、現金・預金はもとより、株などの有価証券や不動産、貸付金なども含まれます。報告すべき金額は「時価または見積り金額」となっており、不動産などの場合は、時価を算出する必要があります。
強まる海外資産への「監視の目」
海外に財産を移すのは、ほぼ例外なく富裕層。平たく言えば「お金持ち」ですから、預金の利息など、あまり気にしない人も多い。毎月、銀行からステートメント(計算書)が送られてきますが、ナナメ読みで済ませてしまうわけですね。ところが、12カ月合算してみたら、それなりの金額になっていることがあります。もちろん、これも所得ですから、本来申告しなければいけないもの。

これも誤解している人が多いのですが、例えば、全額ローンを組んでハワイにマンションを買ったら、それは資産です。今度の制度では、ローンの支払い中であろうとなかろうと、総財産の時価が5000万円を超えていたら報告しなければなりません。今後は、とにかく海外の財産が5000万円を超えていたら、毎年、調書を書く必要があります。税務当局も、初回の状況も踏まえつつ、今回あたりからは「本格運用」に乗り出してくるでしょう。 各国の税務当局とのやり取りも、活発化の兆候が見られます。さきごろ、北海道のニセコのホテルに投資していたオーストラリア人の情報を、日本の税務当局が豪州の当局に送り、見返りで同国の日本人の情報を入手する、という“バーター取引”が明らかになりました。税収が増えるという点で、両国の税務当局にとって、ウイン・ウインですから、こうした国際協調は、先行き強まりはすれ、廃れることはないでしょう。様々な形で、海外資産への「監視の目」が、一層強化されてくる、というわけです。
知らないと怖い!? 海外資産の相続
相続発生で、順風満帆が一転、“逆風”に
個人の財産を海外の金融機関に移したり、海外で不動産投資をしたり、関連する金融商品を購入したり――。日本人の資産運用も、ずいぶんグローバル化しました。理由は単純で、海外の金融機関のほうが高金利だから、少しリスクがあっても高いリターンが期待できる資産運用が可能だからです。多少好転したとはいえ、日本国内の金融市場の動向などをみると、資産家に限らず海外にお金を移したくなる気持ちは分かります。これからも、海外投資熱は高まることでしょう。

ただし、目先の利益だけに目が行っていると、思わぬ「罠」にはまる危険性があることも、しっかり認識してほしいと思います。当然のことながら、海外で所得があれば(預金の利子も所得です)、申告しなければなりません。申告漏れなどが発覚すれば、重加算税などのペナルティが課される可能性があるのは、国内と同じ。前回も述べたように、新設された「国外財産調書」(海外資産が5000万円を超えた場合に義務づけられる、資産の内訳を記した調書)の提出を故意に怠ったり、虚偽の記載をしたりすれば、懲役刑を食らうことになるかもしれません。さらに気をつけなければいけないのが、実は相続です。ざっくり言えば、手元のお金を増やすうえで、海外投資は魅力が大きいけれど、いったん相続となると、状況は180度変わります。国内に置いておくよりも、税金面などで不利になるだけでなく、大きなリスクが生まれることを理解しておいてほしいのです。
自分のお金が下せない!?
例えば、海外で買った不動産。前にもこのコーナーでお話しましたが、相続税を計算する際、不動産は国税庁が毎年発表する「相続税路線価」を基に評価されます。この路線価は、時価(実勢価格)の80%を目安に決められているのをご存知ですか? 土地が時価を上回った評価を受け、納税者の不利益にならないための措置なんですね。

しかし、これは、あくまでも国内に持つ不動産の場合。海外に不動産がある場合には、すべて時価での評価になります。ハワイに時価1億円のコンドミニアムを所有していたら、相続税の計算のベースになる相続財産には、そのまま1億円を上乗せ。国内のように、「8掛けで8000万円」といった評価減は、一切受けることができません。不動産に限らず、海外資産はすべて時価評価される――。意外に、知らない方が多いのではないでしょうか。

海外預金にも注意が必要です。亡くなった人の口座から預金を引き出すのは、国内の場合でもけっこう骨が折れますが、海外ではさらにハードルが高い。国によって事情は違いますが、故人の遺言がなかったら、まず訴訟を覚悟しなければなりません。私の知る人で、スイスの銀行に3億円を預けたまま亡くなった方がいます。遺族がそれを引き出そうとしたものの、引き出しを要請する書類に本人のサインがないことを理由に、何度チャレンジしてもNG。とうとう、諦めざるをえませんでした。このケースでは、亡くなったご本人のミスもありました。海外に預金をする場合、預金者本人の他にもう一人の名前が併記できることになっています。この「もう一人」のサインがあれば、引き出せたのです。単独の名義で預金したために起こった、悲劇でもありました。

実際には、こうした形で、海外で“塩漬け”になっている預金が相当あるはずだ、と私は睨んでいます。そうした事案に対処できる、弁護士、公認会計士、税理士といった専門家も、ごく限られているのが現状なのです。 ちなみに、今のような場合、たとえ引き出せなくても「海外資産」です。当然のように、相続税がかかってくる。それを考えると、「恐ろしきかな、海外資産」というという気がしませんか? また、首尾よく下せたとしても、ペーパーのやり取りですべてが完了することは、まず考えられません。へたをすると何度も往復することになる航空運賃だけでも、馬鹿にはならないと思います。

実際には、表に出ない(当局に知られていない)海外資産も多くあるとみられています。誤解を恐れずに言えば、どんなに資産があっても、見つからなければ税金はかからない。だた、前回も述べたように、国税当局の海外資産に対する監視の目は、明らかに強まりつつあると感じます。高をくくっていると大やけどを負う可能性があることを、はっきりと申し上げておきます。 だから、海外投資は控えよう、などというつもりはありません。ただ、やるのなら、以上のような事実も知ったうえで行動してほしいと思うのです。人間がいつ死ぬかは「神のみぞ知る」ですが、相続が頭をよぎるようになったら、資産は国内に引き上げておく方が賢明かもしれません。
あなたにおすすめの記事
人がいつ亡くなるか? いつ相続が発生するのか? 正確に予測することは不可能です。それだけに、「節税のために、できる対策がこんなにあったのに」「早く決断すればよかった」といっ…
遺産分割をめぐって、親族同士が骨肉の戦いを繰り広げる「争続」。時には、相続人の間の話し合いではまとまらず、裁判に持ち込まれることもあります。今回、大貫利一税理士事務所の大貫…
「自分が死んだら、財産はこう分けて欲しい」。そういう意思を、残る人たちにきちんと伝える遺言書は、無用の相続争いを防ぐうえでも重要です。でも、書き方を間違えると、思いとは異な…
「使っていない土地がある」「預金がけっこう貯まって、このまま相続になったら税金が高くなりそうだ」――。こんな場合に有効な対策の一つが、賃貸アパートを建てて経営する、といった…