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遺産相続「先生、教えて!」
遺産相続「先生、教えて!」
「考えすぎ」の遺言書が、 アダになることもある
「考えすぎ」の遺言書が、  アダになることもある
「自分が死んだら、財産はこう分けて欲しい」。そういう意思を、残る人たちにきちんと伝える遺言書は、無用の相続争いを防ぐうえでも重要です。でも、書き方を間違えると、思いとは異なる結果を生む可能性も。大貫利一税理士事務所の大貫利一先生は、こんな遺言書に出会って、戸惑った経験があるそうです。
◆生半可な知識で、大きな失敗を
相続関連の本を読んでも、ネットの記事を見ても、遺言書の大切さが強調されています。
被相続人の考えをしっかり残すことは、遺産分割を円滑に進めるうえでもとても大事なことです。ぜひ書いてもらいたいと、私も思います。ただし、「書けばいい」というものではないことにも、注意が必要です。時には、「これはまずいな」という中身が記されていることもあるんですよ。

1つ事例を紹介しましょう。あるお医者さんが亡くなって、相続になりました。奥さんはすでになく、法定相続人は、先妻の子1人と後妻の子ども2人の計3人でした。で、お父さんはその後妻の子のほうにすべての財産を譲りたいという気持ちを持っていて、そういう中身の遺言書を書いた……つもりだったんですね。ところが、文面は、その意向とは違うものになっていたのです。
どんな内容だったのでしょう?
遺言書には、「すべての不動産と動産を、後妻の子2人に譲る」と書かれていました。「土地、建物」を指す不動産はいいとして、問題は「動産」です。民法上、それは「不動産以外の物」と定義されているんですね。具体的には、家電製品や自動車、ペットも動産です。映画のチケットや鉄道の切符といった「無記名債券」もこれに含まれます。しかし、預貯金や株などの有価証券などは、動産ではありません。
なるほど。それらについては、被相続人の気持ちに反して、先妻の子どもにも相続する権利が発生してしまうわけですね。
ひとこと、「全財産を……」と書いておけば問題なかったのに、なまじ正確を期そうとしたために、大きなミスを犯してしまったんですよ。
「自分で書く」危うさもある
そんな内容になっているのだから、「自筆」だったのでしょうね。
そうです。遺言書には、すべてを自分で書く「自筆証書遺言書」、公証役場で公証人に代筆、保管してもらう「公正証書遺言書」、自分で書いて公証役場に持っていく「秘密証書遺言書」があります。「公正証書」にしていれば、こんな失敗は起こらなかったでしょう。自筆だと偽造や紛失の危険性もありますから、きちんと公正証書遺言書にしておくことをお勧めしたいですね。

あえて付け加えておくと、仮に「全財産を後妻の子に譲る」と遺言書に書かれていたとしても、前妻の子は1円も遺産をもらえないかというと、そんなことはありません。民法には、法定相続人が最低限受け取れる遺留分が定められていて、この部分については、請求すればもらうことが可能です。

ところで、実はこの相続は、「被相続人の遺言書のミス」とは別の大きな問題を抱えていたんですよ。次にお話ししましょう。
◆相続人に行方不明者がいたら、 相続はどうなる!?
「考えすぎ」の遺言書が、  アダになることもある
先妻の子がどこにいるのか、わからない
実は、さきほどお話しした相続は、他の税理士さんたちが手に負えないからと、私のところに回ってきた案件でした。前妻の子と後妻の子がいて、亡くなったお父さんは後妻の子に全財産を譲ろうと遺言書を残したわけですけど、50代後半になるはずの前妻の子というのが、「行方不明」だったのです。しかも、状況はかなり複雑で、彼は日本で生まれたらしいのですが、その後アメリカに渡って消息不明になっていたんですよ。とはいえ、現状では法定相続人に間違いないですから、放っておいて遺産を分けることもできない。そんな人間を見つけ出さなくてはならないのですから、みんなが二の足を踏むのもわかります。
引き受けた先生は、具体的にどんな手を打ったのですか?
まず、私が「不在者財産管理人」と「相続財産管理人」になりました。前者は、行方不明になった人の財産の管理・保存を行う、後者は相続人の存否が明らかでない場合に、被相続人、この場合はお父さんの財産を管理・保全して、その清算を行う――のが役目で、ともに家庭裁判所が選任します。そのうえで、アメリカでの調査を行うために国際弁護士に依頼して、執行人になってもらいました。

日本のような戸籍のないアメリカでの人探しって、大変なんですよ。生年月日と苗字を頼りに、「ここが終わったら次はそこ」という具合に、州ごとにしらみ潰しにしていくわけです。州を越えるごとに新しくコストが発生するし、時間もかかります。結局、調べ終わるのに2年ほど費やしました。
苦労の末に、親のミスは帳消しに
その結果、見つかったのですか?
いいえ。そこで今度は、その方の「死亡」を認めてもらわなければなりません。日本では、原則としてある人の生死が7年間不明の場合に「失踪宣告」(※1)が出されますから、家庭裁判所にその申請を行いました。ところが、渡米してしまっていますから、これも簡単にはいかない。入国管理局への問い合わせやら何やらで、ここでもかなり時間がかかってしまいました。

ただ、結果的には、それも“怪我の功名”だったんですよ。相続人が減ると、相続税の基礎控除(※2)が減額になりますから、修正申告して追加で税金を支払う必要が生じますよね。ところが、面倒な調査を重ねているうちに、「納税義務が発生してから5年」という相続税の時効を経過したため、その必要がなくなったのです。結局、お父さんの財産は、その遺志通り、後妻の子ども2人が半分ずつ分けておしまい。父親のミスは、思わぬ形で帳消しになりました。世の中には、こんな相続もあるんですよ。
※1失踪宣告 生死不明が一定期間以上続いた場合に、その人を死亡した者とみなす制度。

※2相続税の基礎控除 課税のボーダーラインとなる遺産総額。「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこれ以下なら相続税はかからない。
◆相続になってわかった、 あの人の「素顔」
「考えすぎ」の遺言書が、  アダになることもある
近寄りがたいほど厳しい人だった
先生は、税理士になられてから、ずっと相続のサポートをやっていらっしゃるそうですね。これまで、先生ご自身が仰天するような案件も、経験なさったのではないでしょうか。
はい、それはもうたくさん(笑)。亡くなってから、その方の裏の顔というより「本性」があからさまになってびっくりしたという点では、こんな相続がありました。もう7,8年前のことです。そのご家庭は農家でしたが、持っていた土地を売ったり、賃貸マンション経営をやったりで、かなりの資産家でもありました。ご両親は健在で、子どもは長男・次男の2人。農家は、長男が継ぐことになっていました。兄弟は2人とも結婚して子どももいて、次男も実家に隣接するように家を建てて住んでいたのですが、その方が突然亡くなって、相続になったのです。まだ60歳前だったのですが。

私は、毎年、その家の税務申告をお手伝いしていましたので、その相続も担当させていただくことになりました。公務員をしていた次男の方とも、もともと面識があったのですけど、謹厳実直を絵にかいたようなタイプで、気難しそうなところもあり、ちょっと近寄りがたい雰囲気だったんですよ。
ところが、相続を始めてみたら……というわけですね。どんな素顔をもっていたのでしょうか?
預けたはずの“金”がない!
まあ、この場でお話しすることのできないことも含めて、「出るわ出るわ」という感じでしたね。まず、この方、公務員であるにもかかわらず、禁止されているアルバイトをしていた。マイナンバー制度があったら、完全にアウトです。それから、親から預かった数千万円相当の“金”が、跡形もなく「消えて」いました。確定申告書を見たら、全部換金されていた。
ちゃんと申告はしたんですね(笑)。
金の売買はバレますからね。で、それだけ懐に入れたはずなのに、自分名義の預貯金はほとんどゼロどころか、カードローンの借金を残していたんですよ。そうした事実を、両親も奥さんも、もちろん子どもも、まったく知りませんでした。悲しみとか憤りを通り越して、みんな呆然としてましたね。
それだけのお金を、いったいどこに使ったのでしょう?
それが、正確なところは、結局わからずじまいでした。毎日定時に帰宅するような生活で、女性の影も感じられない。ギャンブルとか、何かの投資に手を出した形跡もない。唯一個人的に使ったとすれば……書斎の鍵を開けて入ったら、アイドルグループのCDなどが、山と積まれていたんですよ。

もしかしたら、そこは唯一心を解放できる空間だったのかもしれません。「こんなにも秘密の多い相続ははじめて」という意味で、大変印象に残る相続でした。
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