遺産相続「先生、教えて!」
遺産相続「先生、教えて!」
家族の感情の行き違いが演出する「ドラマより奇な」相続
2018/12/13
家族の感情の行き違いが演出する「ドラマより奇な」相続
亡くなった人の遺産を分ける相続。「いざとなって揉めないように、事前にしっかり準備しましょう」と言われるのですが、浅野税務会計事務所の浅野和治先生は、「準備は必要。ただし、それでもあっと驚く事態が起こるのが、相続なのです」と話します。今回は、そんな事例の数々をご紹介いただきながら、争いを防ぐのに有効な遺言書作りの考え方などについて、解説していただきます。
「後妻」で豹変。母を「誘拐」? 相続では、「そんなバカな!」が起こる
終わったはずの相続が……
今日は、相続に長い経験と実績を持つ先生に、いろんな事例の紹介を中心に、お話をうかがっていきたいと思います。
最初に申し上げておくと、相続をめぐる争いは、そんなに頻発するものではありません。ところが、時として、ちょっとした感情の行き違いとか思い込みだとかが引き金になって、まったく想定外のことが起こるわけです。そして、いったん争いになってしまうと、事態はどんどん泥沼化する。それが、あなたの身に起こらない保証はないと思って欲しいのです。
 こんな事例から紹介しましょう。亡くなったのは、2人の息子がいるお母さん。夫は健在で、揉め事の「主役」は、この70歳代のお父さんでした。
「争続」には、子どもたちが親の遺産を奪い合う、というパターンが多いのですが。
このケースは、そうではありませんでした。
 まず争いの伏線になったのは、亡くなったお母さんが、親から相続したアパートなど、けっこうな財産を持っていたことです。でも、当初の話し合いは、揉めるもなにもお父さんは「もう俺は歳だから」と、遺産のほとんどを子どもたちで分けるように言い、そういう内容の遺産分割協議書(※1)に、しっかり判も押したのです。
え、そうなんですか? だったら、その相続は一件落着のはず。
なのですが、「続編」があったんですね。それから1年くらい経って、寂しくなったお父さんが、家政婦紹介所に行きました。そして、そこから紹介された女性と仲良くなりました。ついには、籍を入れようということになりました……。後の展開を考えると、「後妻業」に引っ掛かったも同然の成り行きです。
そういう話はよく聞きます。ただ、この場合は、遺産分割協議が終わっているわけですから、後妻は子どもたちがもらった前妻の遺産には、手が付けられないのではないですか?
ところが、なんとお父さんが、「遺産分割協議書は無効だ」と言い出して、裁判になってしまったんですよ。「よく分からずに、息子たちに騙されて判を押したのだ」と。後妻にけしかけられて豹変したとしか思えません。言葉は悪いのですが、年を取って体も頭も弱ってきていますから、彼女の言うがままになったのでしょう。
※1 遺産分割協議書
相続人が遺産分割協議で合意した内容を文書にまとめ、相続人全員の合意書として成立させる書類
そして遺産は、後妻の元へ
裁判の結果は、どうなったのですか?
結局「後妻側」が勝って、遺産分割協議書は無効とされてしまいました。法定相続分(※2)に従い、前妻の遺産の2分の1が彼女に渡ったわけです。
それも、ちょっと信じられない結果に思えます。
最初の遺産分割協議が終わったところで私の手を離れた案件ですので、後妻がどんな人間なのかも、裁判がどう争われたのかも、私にはわからないんですよ。「続編」は、たまたま別のお客さんから聞いた話なのです。息子さんたちにとっては青天の霹靂ですから、十分反論できるだけの準備ができなかったのかもしれません。
 一点、心残りがあるとすれば、協議書の記名までをパソコンで作成したことですね。騙された」とか「勝手に判を押した」とかいった口実を与えかねないですから。まあ、この場合、それが決定的な「敗因」だったとは思いませんが。
署名する必要がある遺言書などと違って、遺産分割協議書は記名も手書きでなくてOKなんですよね?
法的にはその通りなのですが、この事例のようなことが起こる可能性が僅かでもあるのならば、署名(自筆で氏名を書く)にしたほうがいいでしょう。
それにしても、息子さんたちも踏んだり蹴ったりの事態でしたが、親から譲り受けた財産を夫の後妻に持っていかれたお母さんも、浮かばれません。
「財産は子どもたちに譲る」という遺言書を残していれば防げたと思いますが、まさか残された夫がそんな行動に走るとは、少しも思わなかったでしょうから。でも、それが相続なのです。
※2 法定相続分
遺言書がない場合の、相続人の遺産の取り分。この場合は、配偶者(父親)と子ども(息子2人)が2分の1ずつ。
予想通り、母を「追い出した」兄
「相続人の配偶者」が絡む事例では、こんなのもありました。工務店を経営していた父親が亡くなって、相続になりました。相続人は、母親とその会社を継ぐ長男を含む3人の子どもたち。お母さんは、その会社で経理の仕事をして、給料をもらっていました。
 この一次相続(※3)には、私は関わっていなかったのですが、問題になったのは、その工務店の株式だったんですよ。長男は、「父親の持っていた株を全部もらいたい」と主張した。しかし、長男以外の子どもたちは、「お母さんも持つべきだ」と、それに反対したのです。
通常、事業承継では、後継者に株を集めるのが理想だと言われますよね。他の兄弟は、なぜ反対したのでしょう?
兄が100%の株を持ったら、お母さんを追い出すに違いない、と考えたからでした。結局、「息子がそんなことをするはずがない」というお母さんの意向を汲んで、株は長男がすべて相続しました。そして、兄弟たちの懸念が的中するわけです。
お母さんの首を切ったわけですか?
まず「会社から出て行け」という話になり、会社は自宅兼用の建物でしたから、そこからも追い出した。
自分の母親に、よくそんなことができますね。よほど仲が悪かったのでしょうか。
いや、追放を仕組んだのは、「長男の嫁」だったんですよ。
ご長男は、その奥さんに頭が上がらないというパターンなのですね。それならわかります(笑)。
私のところにいらっしゃったのはそこから。お母さんも80歳ぐらいになっていましたから、今度は相続で失敗しないようにしっかり対策を打とうということになりました。このお母さんも、けっこうな資産家でしたから。
※3 一次相続
両親のうち、どちらかが先に死んで発生する相続のこと。残った親の相続が二次相続。
今度は遺留分を要求してきた!
対策というと、やはり遺言書になりますか?
そうです。「長男にはびた一文渡さない」という内容の遺言書を作成しました。ただし、ここでも複雑な感情が絡んできたのは、お母さんは長男夫婦には愛想をつかしていたけれど、その娘、つまり孫は可愛かったんですね。そこで、彼女をわざわざ養子にしたうえで、他の子どもと平等に財産を分けることにしたのです。
なるほど、「親の心」も複雑で、それが遺産分割にも影響するわけですね。遺産を分け与えるだけならば、有効な遺言書があれば足りますが。
長男には、絶対に遺産を渡したくないという気持ちの表れだったのでしょう。子どもの数が増えれば、仮に遺留分(※4)を要求してきても、取り分は少なくなりますし。
実際に遺留分の請求は?
当然のごとく、長男は「遺留分減殺請求」をしてきました。簡単に言えば、「他の相続人は、本来自分がもらえる分までもらうのだから、それを返して欲しい」ということですね。
ところが、請求の申し立てについての内容証明郵便が来ただけで、そこから話がぷっつり途絶えてしまったんですよ。聞いたら、嫁さんと離婚したのだ、と。
遺産のことをうるさく言う人間がいなくなったから、遺留分はもういいということでしょうか。親の相続が、長男にとっても不本意な形で進んでいたことが透けて見えるような気がします。
しかし、この案件にも「続編」がありました。なんと5年ほど経って、長男夫婦がよりを戻したのです。そのとたん、遺留分の一件が再燃しました。
まさに「小説より奇なり」の展開です。ただ、法定相続人である長男の遺留分は、当然認められることになりますね。
はい。実はこの話は現在進行形で、遺留分がいくらになるのかを算出しているところです。まあ、「長男夫婦には、1円も渡したくない」というお母さんの望み通りにはなりませんでしたが、遺言書を作ったおかげで、ずいぶんそれに近い形にはできました。
※4 遺留分
遺言書の内容に関わりなく、相続人が最低限受け取れる遺産のこと。この場合は、配偶者4分の1、子どもも4分の1。養子も含めて子どもは4人いるので、子ども1人の取り分は16分の1となる。
「土地は子どもに、家は母に」の大いなるメリット
2018年の民法改正では、今の例のように、一次相続で残った配偶者が自宅に住み続けられなくなることのないよう、「配偶者居住権」(※5)が新設されましたよね。
そうですけど、そもそもお母さんを追い出すなんていうのは、レアケースですからね。個人的には、あの改正はあんまり意味がないというか、やるならもっといい方法があると思うんですよ。
どんな方法ですか?
自宅の土地は、長男なりが相続し、上物についてはお母さんが相続するのです。長男との共有でもいいでしょう。私はよくこれを勧めるのですけど、「嫌だ」という子どもは、まずいません。
確かに親にとっては、資産価値の高い土地は子どもに譲っても、自分で家を持っていたら安心できます。
「自宅は、全部長男が相続したらいい」というお母さんって、けっこういるんですね。それを、私は説得するのです。「一部でもいいから、家を持っていましょう」と。
 ただ、「そうしないと、いつ追い出されるかわかりませんよ」ということではないのです。女性は長生きしますから、往々にして、そのうち心境の変化に襲われるからなんですよ。
どんな変化が?
息子に譲った家に暮らしていると、だんだん居心地が悪くなるようなのです。「他人のところに、仮住まいしているようだ」と。そういう愚痴を、私は何度聞かされたかわかりません。みなさん判で押したように、そうなるのです。
そうか。自宅にはお嫁さんもいるし……。
税理士に愚痴るだけなら、まだいいでしょう。フラストレーションが溜まって、娘のところに出掛けては、不満を言ったりするのが最悪なのです。「お兄ちゃんは、なんにも気を使ってくれないのよ」とか(笑)。一方的な話を聞かされていれば、娘さんもだんだん「そうなんだ」と思うようになりますよね。そのことが、お母さんの相続の時、争いの火種にならない保証はありません。
かなりあり得るストーリーだと思います。そういう「教科書には載っていない、心の機微の問題」が、実際の相続には大きく影響しますから。
付け加えれば、このスキームは、適用されれば相続する不動産の評価額を大幅に下げることができる「小規模宅地等の特例」には、基本的に影響を与えません。この特例は、あくまでも「宅地」を対象としたものですから、適用を受ける人がその上に立つ家に住むのなら、問題なしです。
「自宅の相続といえば、家屋も土地も丸ごと引き継ぐこと」という固定観念をちょっと変えたら、親も子も助かる仕組みが見えてきました。勉強になります。
※5 配偶者居住権
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象に、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする法定の権利。2020年4月1日より施行される。
ある日、母親が「消えた」
先ほどの事例では親を追い出したのですけど、反対に「奪い取る」例も、けっこうありました。お父さんが亡くなってお母さん1人になったところで、それまで長男夫婦と同居していたのを、次男が無理やり自分のところに連れてきて、生前からお金をどんどん吸い取ってしまうとか。
介護を押し付け合うことも多いのですが、逆にお金目当てで「囲って」しまうわけですね。
半ば「拉致」されたような事例もありましたよ。代々の地主さんで、私はお父さんが亡くなった一次相続をお手伝いしたのですが、その後は残された広い土地に、お母さんと長男夫婦が別々に家を建てて暮らしていました。土地の所有はお母さんと長男が半分ずつで、お母さんが亡くなったら全部長男が相続するというのが、暗黙の了解みたいになっていたんですよ。昔ながらの家督相続の感覚です。
かつてならそれが当たり前で、争いにはならなかったと思いますが……。
それを了解していない人間が、2人いました。結婚して家を出た娘たちです。そんな筋書きの相続は認めないとばかりに、ある日、彼女たちは結託して実力行使に出ました。目撃した人の話によると、自転車で出かけたお母さんが、突然、その筋らしき男たちに囲まれて。連れて行かれた先は、長女の家でした。
それって、立派な犯罪じゃないでしょうか。
当然、長男は警察に行きました。ところが、お母さんは娘のところにいる。家族のいざこざか何かだろうと、取り合ってくれなかったそうです。「民事不介入」だと。
 で、かわいそうにお母さんはそこに「幽閉」されたような状態で、数年後に娘たちに有利な遺言書を残して、亡くなりました。家督相続どころか、長男は受け継ぐはずだった土地の大半を、逆に「むしり取られた」かたちになりました。
そこは、遺言書の怖さでもありますね。でも、娘さんたちは、お父さんの相続の時には、あまり主張はしなかったのでしょうか?
ええ。資産のほとんどを占める土地を妻と長男が相続し、娘たちが受け取ったのは、それに比べれば僅かな現金だったわけですが、揉めるようなことはぜんぜんありませんでした。想像するに、実はその時から「冗談じゃない」というマグマが溜まり始めていたのでしょうね。そこから「復讐」の機会を狙っていたのだと感じます。
そうでもなければ、それだけ計画的な犯罪まがいのことをしたりしませんよね。
この事例は、今から20年ほど前の出来事ですが、お父さん、お母さんの世代には、家督相続的感覚が色濃く残っていたのだと思います。でも、子ども世代は、そうではなかった。その齟齬が生んだ悲劇――親と長男サイドからすればですが――と言えるでしょう。
相続においては、家族だからといって「当然わかってくれるだろう」という思い込みは危険。「しっかり話し合いをする」というのが、やはり鉄則のようです。
遺言書があるとなしでは、雲泥の差。作成は「臨機応変」に
「証拠」のビデオが撮られていた!?
やはり遺言書の「怖さ」を実感させられた相続が、最近もありました。お母さんが亡くなって、相続人は長男、次男。ここも、長男がお母さんと自宅に同居して、弟は外で家庭を持っているというパターンだったのですが、弟が長男の知らない間にお母さんに遺言書を書かせていたのです。自宅の土地は分ける、預貯金などの現金は、全部次男に譲る、という中身でした。
お母さんは、言いなりになってしまった。
やっぱり年を取っていたし、一次相続が長男に有利だったという負い目のようなものがあったのかもしれません。
でも、弟さんは「俺が書かせた」とは言いませんよね。
驚いたことに、次男は、お母さんが遺言書を書いているところをビデオで撮影していたんですよ。それを出してきて、見せるのです。「ほら、ちゃんと自分の意思で書いているだろう」と。実際には、映っていたのは署名、捺印しているらしき姿だけで、文字がはっきり読み取れるものでもなかったですけれど(笑)。
最近はそこまでやる人がいるんですか。
これも想像ですが、弁護士などに相談して、「では、遺言書を書いてもらいましょう。ついてはこんなやり方で」という指南を受けたのではないでしょうか。
それに対して、お兄さんは?
そもそも土地はある程度分けるかたちにしていましたし、現金もそんなに高額なものではなかったので、「面倒くさいから、それでいい」と。実際のところ、争っても「母親に無理やり遺言書を書かせた」ことを証明するのは、簡単ではありませんから。
想像以上に大変な「公正証書遺言書」の作成
とはいえ、そんなふうに遺言書を「悪用」するのは例外です。遺言書の力はそのくらい大きいのだということを認識していただいて、よりよい相続のためにぜひ活用してもらいたいんですよ。
さきほどの「幽閉」されたお母さんも今の事例でも、遺言書は自筆ですよね。普通は「公正証書遺言書」が勧められます。
私も、基本的にはそうします。作成しようとする方が公証役場に出かけて、公証人に作ってもらい、そこに保管してもらうわけですが、紛失や変造の恐れもなく、「安全・確実」ですから。
ビデオに撮らなくても、自分の意思で作ったことが証明されます(笑)。
でも、「公正証書」には、ひとことで言えば「面倒だ」というデメリットがあるんですよ。公証人からは、「財産目録をもっと詳しく」とか「通帳を全部見たい」とかいろんな注文がつきますから、依頼を受けた我々は、そのたびに行ったり来たりしなくてはなりません。お客さまからすると、作成までに相応の時間がかかることを覚悟する必要があることになります。もちろん、お金もかかります。
書類を揃えて役場に行けばその場で作ってくれる、というものではないんですね。
ですから、「もってあと何週間」というような場合には、迷わず自筆で書くべき。とりあえず自筆の遺言書を作成しておいて、公正証書遺言書を準備する手もあります。そこは、自分の状況や財産を譲る相手などを考慮して、最適な方法を選べばいいのです。
作成しやすくなる自筆の遺言書
自分で書く遺言書、正式には「自筆証書遺言書」は、2018年の民法改正の対象になりましたね。
「公正証書遺言書は作成に時間がかかる」と言いましたが、「自筆」が簡単かというと、それはそれで大変な面があります。「全財産を〇〇に譲る」というような場合はいいでしょうけれど、「この土地は長男に、あそこは長女に」となると、やはり財産目録を作る必要があります。自筆証書遺言書では、それも含めて全部手書きでなければなりませんでした。
財産がたくさんあると大変です。
私は、お客さんに「資産はB5の紙に、1つずつ書いてください」とお願いするんですよ。1枚に並べて書いていると、間違えた場合に、最初からやり直しになるから(笑)。
 今度の法改正では、この財産目録については、パソコンで作成してもいいことになりました。これなら訂正なども容易ですから、おっしゃるように財産の数が多いケースでは、かなり作業が楽になるでしょうね。
 なお、これが施行されるのは、2019年1月13日です。相続の発生がこれ以降でも、この日より前に作られた自筆証書遺言書は、「全部自筆」でなくては無効になりますから、注意してください。
それに、作成しやすくなっても、自筆だとどうしても「本当に故人の意思なのか?」といった疑念を招きやすいことも、念頭に置くべきでしょうね。
あまり語られないのですが、遺言書にはもう1つ「秘密証書遺言書」があります。自分で書いて封をして、公証役場に持っていって、遺言書の存在を証明してもらうのですが、これだと本文も含めてパソコンで作成してもOKなんですよ。「自筆」のように、書いた日付を入れ忘れて無効になってしまう、といったミスも防げます。最近、このやり方を使う例も増えているようですよ。
「元気なうちに相続対策」。怠ると発生する“不都合な事態”とは
成年後見人が相続に絡んでくると……
事例紹介に戻りましょう。最近特に「困る」のに、相続に成年後見人が関わってくるケースがあります。成年後見は、「精神上の障害により判断能力の十分でない人が不利益を被らないよう、家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や身上監護を行う制度」などと説明されるのですが、後見人が取る「四角四面」の対応が、円滑な相続の妨げになることが少なくないのです。
高齢化で認知症になる人も増えていますから、そういう話はけっこう耳にします。
お父さんが亡くなって、相続になりました。財産は、親戚のやっている会社の未上場の株と自宅の土地、あとは預貯金で、トータル10億円弱あったでしょうか。相続人は、お母さんと子どもが2人でした。そのお母さんが痴呆症を患って、成年後見人が付いていたんですよ。
遺産分割協議には、その後見人がお母さんの代理人として出てくるわけですね。
そうです。そして、当然のごとく法定相続分である2分の1の財産を要求しました。お父さんは、遺言書を残していませんでしたから。
 この場合、二次相続を考えれば、子どもたちに多めに相続してもらうのがベターな選択でした。
お母さんが法定相続分を相続してしまうと、亡くなった時にそれを受け継ぐ子どもたちの相続税が大きく膨らんでしまうから。
でも、お母さんの代理人である後見人に、そういう話は通用しません。お母さんの当然の権利を侵害することは、彼らを選任した家裁が許さないのです。ということで、財産の半分は、お母さんに渡さざるをえませんでした。
 成年後見人が、遺留分減殺請求をしてきたこともありましたね。
どんな事例なのでしょう?
やはりお父さんが亡くなって、相続人はお母さんと子ども3人という相続でした。このケースでも、お母さんに成年後見人がいた。でも、さきほどの事例と違うのは、お父さんが遺言書を残していたことです。
なるほど。父親は子どもたちに遺産を多く分ける遺言書を書いていた。結果的に、妻に渡すぶんは、彼女の遺留分である4分の1に満たなかったのですね。
だから遺留分はもらいますよ、と。結局、子どもたちが数百万円ずつを現金で渡して終わりました。お母さんは施設に入っていましたけど、子どもは母親をちゃんとフォローしていて、わざわざ二次相続の税金を増やすようなことをする必要はなかったのですが。
今の仕組みでは、どうしようもないですね。
70歳代のうちに準備する
ただし、「お父さんの遺言書があったから、4分の1ですんだ」とも言えるんですよ。今の2つの事例の違いをみても、その威力が分かってもらえると思います。遺言書は、親族間の争いを防ぐだけでなく、成年後見人対策としても有効です(笑)。
痴呆症はこれからますます増えるでしょうから、今の指摘が冗談だとは思えません。
付け加えておくと、「遺言書は、相続人の遺留分を考えて作りましょう」というアドバイスがされますよね。
譲る財産に差をつけるのはいいけれど、最低、遺留分だけは渡すようにした方がいいということですね。揉め事になる危険性があるので。
話としてはわかるのですが、「気にせず、思い通りに作ればいい」というのが、私の基本的なスタンスなのです。もちろん、必要に応じて遺留分の話はしますけど、最優先すべきは「財産を譲る人の気持ち」なのですから。誤解を恐れずに言えば、その結果相続人が揉めても仕方ない。
そこに悩んで遺言書の作成を躊躇するのではなく、まずは正直な気持ちを書いてみようということですね。
話を戻せば、今の成年後見人の事例は、お客さんにもよく話をするんですよ。「お父さん、あなたが元気なうちにしっかり遺言書を作っておかないと、こういうことになるかもしれませんよ」と。長生きする女性が痴呆症になる確率は、おっしゃるように低くはないですから。
 一方、子どもの世代には、「遅くとも親に後期高齢者(75歳)の通知が来たら、対策をしたほうがいい」と言います。
子どもから親に相続の話をするのは、けっこう難しいですよね。
日々の忙しさもあるし。でも、私の経験上、70代だったら合理的な判断ができます。そこから年齢が上がるにつれて、自分のお金に触られるのを極端に嫌がるようになるんですね。「1000万円だけ生命保険に換えてくれたら、相続税が安くなるんだけど」と話しても、お金を奪われるように思ってしまう。
「俺を殺す気か」とか(笑)。
でも、親の遺産を受け継ぐ相続で、他の兄弟とトラブルになったり、税金の支払いに苦しめられたりしたら、本末転倒でしょう。そんなことになるのを、親も望んでいないはずです。
「経験のある専門家の話を聞いてみよう」と水を向けるのも、いいかもしれませんね。今日は、いろいろ参考になるお話をありがとうございました。
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