メリット大、リスクも大の「広大地」

メリット大、リスクも大の「広大地」

2017/4/19

 
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相続税の納税額に大きな影響を与えるのが、被相続人の持っていた不動産。中でも「広い土地」は、それがいくらで評価されるのかによって、結果に雲泥の差が出ます。その評価額をドラスティックに下げられる「広大地」をご存知でしょうか? ただし、当然どんな土地でもOKというわけにはいきません。ランドマーク税理士法人の清田幸弘先生に解説していただきましょう。

◆面積が広いほど、有利に働く

先生の事務所は、土地の「広大地」評価にも定評がありますね。
全国でもトップクラスの案件を扱っています。ちょっと宣伝みたいになってしまいますけど、この評価はどこの事務所でもできるというものではありません。適用できるかどうかの判断は簡単ではないし、もし広大地として申告し、それを税務署に否認されたりすれば、多額のペナルティーを覚悟しなくてはならないのです。だから、たとえ相続財産に広い土地があっても、初めからその検討をスルーする事務所はたくさんあります。そもそも、広大地を知らない先生も少なくないのが実態でしょう。
初めて相続を迎える一般の人たちにとっては、なおさら縁遠いお話だと思います。「広大地とは何か?」から教えてください。
相続の際、通常の宅地は「路線価(※1)×地積(宅地面積)」で評価額を算出します。ところが、広大地の場合は「路線価×宅地補正率×面積」になるんですよ。ポイントは、この「宅地補正率」で、「0.6-0.05×地積/1000平方メートル」と定められていて、これを掛け合わせることによって、評価額が大きく引き下げられるわけです。数式を見ればわかるように、該当する土地の面積が広くなればなるほど、引き下げ額は大きくなっていきます。

「マンションか戸建て住宅か」が分岐点

どのくらいの広さから、広大地と認められるのでしょう?
地価の高い3大都市圏で500平方メートル以上、それ以外の地域では1000平方メートル以上と決まっています。ただし、これは「必要条件」。国税庁の見解によれば、広大地が適用されるのは、①その地域における標準的な宅地の地積に比べて、著しく広大な土地で開発行為を行うとした場合に、②公共公益的施設用地の負担が必要と認められる宅地。ただし、③大規模工場用地に該当するものや、④中高層の集合住宅の敷地に適しているものは認められません。
 
かみ砕きましょうね(笑)。広さの条件はクリアしていても、③工場用地や④中高層の集合住宅、すなわちマンションが建てられるような土地はNG。全体を要約すると、「①周囲に同じような広い土地がなく、開発するとしたらマンション以外=戸建て住宅を建てるしかないところ」に広大地を認めましょう、ということになります。②の「公共公益的施設」というのは、道路と考えてください。戸建てを建てて分譲しようとしたら、敷地内に道路が不可欠です。逆にみれば、その部分は建物を建てることができません。これを「潰れ地」と言います。それが多く発生する土地が、マンションをどんと建てられる場所と同等の評価では不公平だから、評価を下げる。広大地評価の基本的な考え方は、そういうことです。
先生のお話を聞くと、すっきりまとまる感じがするのですが(笑)。
ところが、現場は理屈通りにはいかないんですよ。
※1 路線価
毎年国税庁が公表する、道路に面する土地の1平方メートル当たりの評価額。

カギになる、土地の使われ方

メリット大、リスクも大の「広大地」
おさらいすると、「広大地」が認められるのは、マンションが建てられず、結果的に「潰れ地」となる道路が不可欠な戸建て分譲で開発せざるをえない土地です。では、マンションが建てられるかどうかの判断基準は、どこにあるのでしょう?
例えば、最寄りの鉄道駅から30分もバスに揺られる必要のあるマンションには、住みたくないですよね。
そうした場所を宅地開発しようとしたら、やはり戸建て住宅ということになるでしょう。「1戸建てのマイホームを手に入れるために、少々の交通の便の悪さには目をつぶろう」というニーズをターゲットにするわけです。そうした環境にあるのならば、広大地が認められる可能性は高くなる。逆に、周囲に何棟もマンションが建っているような地域では、適用はかなり難しいと言えます。
 
ただし、それもあくまでも「一般的には」というお話で、税務当局から明確な基準が示されているわけではないんですよ。実際の相続では、すぐには適用の可否を判断できない「グレーゾーン」の物件が、山のように出てきます。当事務所には、税理士の他に不動産鑑定士や行政書士、税務署OBといったその道のプロが在籍していて、チームで検討を加えていくのですけれど、それぞれの意見が割れることは日常茶飯事。そういうレベルの「難しさ」なのです。

マンションの建つ土地が、広大地に認められた!?

典型的な事例を教えてくださいませんか?
対象の物件は、東京近郊の賃貸マンションの建つ土地でした。周辺にも、同じような集合住宅が点在しているというロケーション。にもかかわらず、広大地の適用が認められたんですよ。
マンションが建てられる土地は、NGなのでは……。
建てられたのは、周辺の物件も含めて、バブル期の真っ只中でした。実は、最寄りの駅からバス利用ということもあって、現在ではマンション建設は行われていません。当時と今とでは、土地に対するニーズ、利用環境が一変してしまったんですね。実際、そのマンションも空室だらけという状況でした。
 
そこで、空き部屋ばかりの古いマンションは取り壊し、新たに戸建ての分譲住宅として再開発するのが最も経済合理性に叶っている、という論理を組み立て主張した結果、税務署もそれを認めたわけです。「中高層の集合住宅の敷地用地に適しているものは除かれます」という国税庁の見解の字面だけではなく、あくまでも「これから実際に開発するとしたらどうなるか」という土地の利用実態に目を向けたことで、納税者の利益を守ることができました。ちなみに、最終的な納税額の減額は、1億円を超えたんですよ。

「更正の請求」で取り戻した

メリット大、リスクも大の「広大地」
さきほど、すでにマンションの建つ土地が「広大地」として認められた事例を紹介しましたけど、実はこれは、いったん別の税理士さんがその適用をせずに申告して、相続税の納付も終わっていた案件だったんですよ。我々が税務署に対して「更正の請求」を行い、1億円超を還付してもらったのです。
 
「更正の請求」というのは、簡単に言えば、申告期限までに行った当初申告で税の払い過ぎが判明した時に、そのぶんを返してもらうための制度。申告漏れなどに気づいたら「修正申告」する必要がありますが、その逆もあるわけですね。ただし、税務署の側からすれば、一度徴収した税金をわざわざ返すことになるのですから、それが認められるのは簡単なことではありません。
結果をみると、最初の税理士さんは、お客様に1億円の損をさせるところだったわけですよね。
「現にマンションが建っているのに、広大地が認められるはずがない」という、ある意味「普通の判断」をしたのでしょう。当然、リスクも頭をよぎったと思いますよ。

大きく減額するほど、リスクも増える

税務署が、広大地の適用を認めなかった場合ですね。
「そうですか、ではやり直します」では済みません。払うべき税を逃れようとしたとみなされて、過少申告加算税、延滞税といったペナルティが課せられることになります。合わせて、だいたい30%くらい。これが減額分、今の例なら1億円にかかってきて、3000万円の追徴となってしまうんですね。ずっと話してきたように、広大地の適用による土地の評価減の効果は抜群なのですけど、大きく減額できるぶん、「失敗」した時のダメージもハンパではないんですよ。
 
相続を請け負ったある税理士さんが、被相続人の持っていた複数の土地を片端から広大地として申告し、大変なことになったという話を聞いたことがあります。申告後、それらの土地の周辺にどんどんマンションが建ち始めたんですね。「集合住宅の敷地用地に適している」ことが、明らかになってしまった。結果的に、その事実を認識した税務署によって、広大地の適用は全部否認されたそうです。けっこう地価の高い場所だったといいますから、ペナルティも甚大だったはずです。
 
これなどは、先ほどの事例とは反対に、広大地の怖さを知らない税理士さんが“暴走”したとしか言いようがありません。ただ、我々からみて問題なく広大地と認められるだろうと思われる案件に対して、税務署が彼らなりの理屈で「対抗」してくることも、けっこうあります。本当に一筋縄ではいかない世界なんですね。
税務署にしてみれば、大幅な評価減はできるだけ避けたいところでしょう。そのせめぎあいにも負けないプロに頼むことが、大事なんですね。

実は税務当局も迷っている!?

メリット大、リスクも大の「広大地」
「広大地」の適用に関しては、当事務所に在籍する税理士や不動産鑑定士などの間でも、同じ土地であるにもかかわらず、判断の分かれることが少なくないという話を、以前しましたよね。要するに、場数を踏んだ専門家でもそんなことになるほど、広大地の定義は曖昧なのです。
だから、税務署がいろんな理屈をつけて、それを認めまいとする余地も出てくるわけですね。
何を隠そう、彼ら自身も迷っているんですよ(笑)。担当者によって、「理屈」が違ったりするのだから。
 
基準が曖昧な原因は、その「出自」にもあります。現在の広大地評価が定められたのは、2004年。それ以前は、有効宅地化率(※2)や不動産鑑定士による鑑定をベースに、「広い土地」の評価をやっていたのです。しかし、実際には、正確な算出のできるプロが税務当局の側にほとんどいないという問題もあって、今の方法に改められたわけですね。あくまでも簡略化が目的だったのですが、肝心の適用要件が大雑把すぎたために、ある意味余計に煩わしいことになってしまいました。
 
現在のやり方には、もう1つ大きな問題があって、平坦だろうが丘になっていようが、面積が同じならば同じ評価なんですよ。真四角の土地も境界線がグニャグニャであっても、同様です。
それでは、明らかに不公平ですね。

「適用要件の明確化」が盛り込まれる

そこで、タワーマンションの話にも出てきた2017年の税制改正大綱では、この広大地についても、評価方法の見直しが示されたんですよ。国の側には、広大地評価が相続税の「節税スキーム」になっているという問題意識もありました。具体的には、「現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する」とされています。
 
以前説明した「路線価×広大地補正率×面積」という現在の評価は、「路線価×補正率×規格格差補正率×面積」に改められることになりました。「補正率」とは「形状(不整形・奥行)を考慮した補正率」、「規格格差補正率」は「面積を考慮した補正率」だと説明されています。この新たな評価方法が、来年1月1日から適用される予定になっています。
先生は、この見直しを評価されますか?
「適用要件を明確化する」とうたったわけですから、「現状は明確化されていない」という認識を当局も持っている。細部の詰めはこれからでしょうけど、形としては以前の不動産鑑定の世界に近づいていくのではないかと思われます。それに本当に税務署が対応できるのかという問題はありますが、方向性は評価していいのではないでしょうか。
 
あえて付言すれば、もしかすると、これはすべての納税者にとって有利な改正にはならないかもしれません。でも、一番いけないのは、人によって不公平が生じることだと、私は思っているんですよ。
※2 有効宅地化率
道路などの「潰れ地」を除く、敷地内で実際に宅地が建てられる面積の割合。
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