「準備したから安心」とはいかないのが、相続です(3)

「準備したから安心」とはいかないのが、相続です(3)

2019/1/15

 
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兄弟の相続に遺留分はない

最近の例で、7人兄弟の1人が亡くなって、相続人が12、3人いるというケースがあったんですね。子どもはおらず、被相続人の高齢の兄弟たちが相続人なのですが、すでに亡くなっている人も何人かいて、その子ども、兄弟たちから見ると甥、姪が代襲相続人になっているわけです。
 けっこう地価の高い場所に土地を持っていて、それが資産の大半を占めている、というパターン。
聞いただけで、大変そうです。
いくらいい土地でも、「みんなで共有」などというわけにはいきませんから、私は、「売却して分けるのも方法ですよ」という話をしました。そうすると、兄弟たちは、自分たちももうそんなに長くないと思っていますから、「任せる」ということになるのです。ところが、甥や姪が「土地を欲しい」と反対して、話し合いはなかなかまとまりませんでした。
 そのうち兄弟たちも、「仕方がない。払える金はないし、登記に入れてやればいいじゃないか」ということになってしまって。そうなると、いくら共有のデメリットを説明してもダメ。結局、土地をみんなで持つことになりました。
一等地の土地の所有者だけど、そんなに共有の名義人がいたら、思い通りに活用することは難しいでしょう。文字通り「宝の持ち腐れ」です。
配偶者や子ども相手の相続は、問題も起こるけれど、こういうケースに比べたらずっとましです(笑)。兄弟だけで大変なのに、その子どもが出てきてしまうと、話し合いをまとめるハードルが、ぐんと上がってしまう。
甥や姪にしてみれば、顔を知らないようなおじさん相手だけに、大胆な主張ができるという面も、あるのかもしれませんね。
ただし、兄弟が相続人となる場合には、遺産の取得を「ブロック」する手立てもあるんですよ。こんな事例がありました。やはり子どもがなく、自分が死ねば相続人は妻と兄弟、という男性が遺言書を書きたいと相談にやってきました。「遺産は、全部妻に渡したい」とおっしゃるわけです。
 この場合、法定相続分は、配偶者3/4、兄弟1/4です。遺言書がなければ、兄弟たちにはそれだけの遺産分割を要求する権利があるのです。では、遺言書を残した場合の遺留分はというと、これはゼロなんですね。先の事例でお話しした遺留分は、配偶者や子ども、あるいは親が相続人となる場合に認められるもので、兄弟姉妹にはありません。
「妻にすべて譲る」という遺言書があれば、その通りになるというわけですね。
その通りです。
やはり遺言書の効果は絶大ですね。

税務署は、何を見つけたいのか?

さきほど、「基礎控除の引き上げ以降、課税対象になる案件が目立って増えた」というお話がありました。そのほか、最近の相続を見ていて、「特にこういう点に注意した方がいい」という問題がありましたら、最後にお話しいただきたいのですが。
まあ、以前からそうなのですけれど、税務署は、特に「名義預金」には厳しい目を向けてきている感じがしますね。よくあるのが、奥さん名義の銀行口座に1000万円の預金があるのだけれど、自分で働いて稼いだのではなく、亡くなった旦那さんの給料からせっせと貯めたものだった、というようなケースです。
 実際のお金の出どころが被相続人だった場合には、表向きの名義に関係なく、相続財産として相続税の計算にカウントされてしまうんですね。しかも、申告後の税務調査(※8)で見つかると、「被相続人の財産をわざと隠していた」として、重加算税(※7)という重いペナルティを課せられることもあります。
奥さん名義や子ども名義の通帳などには、気をつけたいですね。
「子どもには贈与していたのだ」と言うと、「子どもさんは、そのことを了解していましたか」と突っ込んでくる。贈与というのは、「あげる」「もらう」という、両者の意思を前提とした契約ですから、単に「子どものために蓄えた」ものは該当しません。
 問題になるのは、現金だけではないですよ。こんな事例がありました。ある中小企業の創業者が亡くなって、相続になりました。すでに息子さんが社長になっていたのですが、彼は父親が30年ほど前に会社をつくった時から、株の一部を持っていたのです。
その自社株が問題にされた。
そうです。「当時は、学生さんでしょ? 株を買うお金はなかったのではないですか?」と。先代がタダで渡した「名義株」ではないか、と指摘されたわけです。
30年も前のことが、ほじくり出されることもあるわけですね。
彼らが躍起になるのは、さきほども言ったように、首尾よく見つけたら「重加算税」の対象にできるからなんですよ。税務調査に入っても、「100万円の申告漏れを見つけました」では、「ご苦労さん」で終わり。しかし、「隠していたのを発見しました」ということになると、「よくやった!」と(笑)。彼らの正義は、脱税を許さないところにありますから、その現場を抑えたら大きな手柄で、出世のポイントにもなるのです。
なるほど。そういう「税を取るほうの視点」を踏まえておくことも、不測の事態を避けるためには、大事なことかもしれません。
「取るのか、取らないのか」という観点からは、不動産の「広大地評価」(※9)が、よく争点になりました。認められれば、納税者にとっては大幅な税の軽減になるけれど、裏を返すと徴税額が大きく減るわけですから、税務署にとっても「負けられない戦い」だったわけです。しかし、財産評価基本通達の改正により、その評価基準が明確にルール化されたことで、争う余地はほとんどなくなりました。
税務署にとっての「主戦場」ではなくなったのですね。
名義預金に対する風当たりが強まっているのには、もしかしたらそんな背景もあるのかもしれません。
 いずれにしても、一度「名義預金だ」と指摘されてしまうと、それを覆すのはなかなか困難です。私の場合は、できるだけ詳細に話を聞いて、「絶対に大丈夫」と確信が持てて初めて、相続財産から外すようにしているんですよ。
後で痛い目に遭わないように、やはり専門のプロのアドバイスを受けるのがベストだと感じます。
※7重加算税
納税者が、税額計算の基礎となるべき事実を隠したり偽ったりして納税申告した時に課せられる税金。基礎となる税額に対して35%、ないし40%が課せられる。
 
※8税務調査
国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査。任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。
 
※9広大地
3大都市圏で500㎡以上、それ以外の地域では1000㎡以上の土地に関して、定められた要件を満たした場合に、その土地の評価額を軽減できるという特例。2018年に「地積規模の大きな宅地」に改められ、評価は簡略化された。
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